インボイス制度への対応

2023年10月から適用されるインボイス制度について、事業者はどのように対応すべきか。影響を受ける事業者ごとに分類して解説します。

1.インボイス制度の概要

インボイス制度とは

インボイス制度とは「適格請求書等保存方式」と呼ばれる消費税の仕入税額控除に関する制度です。分かりやすく言えば、消費税額を計算するために必要な請求書や領収書の要件を定めた制度です。

インボイス制度の適用時期

2023年10月1日から適用されます。後述しますが、適用当初から適格請求書発行事業者(仕入税額控除を受けるために必要なインボイスを発行できる事業者)になるためには、2023年3月末までに登録をする必要があります。そのため、実質的には2022年度中には対応方針を決めておく必要があります

誰に影響するか

多くの事業者に何らかの影響があるため、自社にどのような影響があるかについては事前に分析する必要があります。特に現在消費税を納税していない小規模な会社や個人事業主(売上高1,000万円未満の免税事業者)への影響は大きいため事前の準備が重要となります。

一方で、一般消費者には影響はありません

2.消費税の計算方法

インボイス制度を理解するためには現行の消費税の仕組みや計算方法の理解が必要となります。そこで、ここでは消費税の課税事業者と免税事業者の定義と簡単な計算例を用いて消費税の経理実務を説明します

課税事業者と免税事業者

消費税を課されるか否かで事業者は課税事業者免税事業者に分類されます。

基準期間の売上高で分類されます。簡単な判別方法としては2期前の売上高が1,000万円を超えるか否かです。

課税事業者とは

課税事業者とは、基準期間の課税売上高が1,000 万円を超える事業者であり、消費税の納税義務者となり、消費税の申告及び納付を行う必要があります。

免税事業者とは

免税事業者とは、基準期間の課税売上高が1,000 万円以下の事業者は、消費税の納税義務が免除されている事業者です。

免税事業者は、消費税の納税義務はありませんが、今回のインボイス制度で最も影響があると言われているのは免税事業者です。それについては、下記で検討します。

消費税の計算例

設例

商品を11,000円(消費税1,000円含む)で仕入、22,000円(消費税2,000円含む)で販売した場合の消費税の計算方法を考えます。

上記の仕入れと販売により、消費税の受け払いは以下のようになります。

課税事業者の場合

  • 仕入により、消費税1,000を仕入先に支払う
  • 販売により、消費税2,000を販売先から受け取る
  • 受け取った2,000から支払った1,000を差し引き、2,000-1,000=1,000を納税する。

この差し引いた1,000のことを税務上、仕入税額控除と呼びます。

免税事業者の場合

  • 仕入により、消費税1,000を仕入先に支払う
  • 販売により、消費税2,000を販売先から受け取る
  • 課税事業者のように納税は発生しない
  • 課税事業者に比べて10だけ受け取る金額が多い

このように免税事業者は消費税を受け取っているが納税は行っていないため、消費税を利益として計上しています(益税の発生)。
そのため、課税事業者と比べて不公平であるという指摘が以前からなされています。

3.支払った消費税を納税額から減額する(仕入税額控除)

請求書等の保存義務

上記の設例でいうところの仕入先に支払った1,000円を納税額から控除する(仕入税額控除を受けられるか)ためには、一定の要件を具備した請求書等を保存することが求められます。

     受け取った2,000から支払った1,000を差し引き、2,000-1,000=1,000を納税する。

現行制度でも一定の要件を求められてますが、インボイス制度によってその請求書等の記載事項が変化し、その記載事項を満たすために追加の対応を求められるようになりました。その対応の影響が大きいため、大きな波紋が起きているのが現状です。

区分記載請求書と適格請求書(インボイス)の記載事項

現在使われている区分記載請求書と、2023年10月以降に利用される適格請求書(インボイス)には、以下の事項が記載されます。

一見すると、大きな変化はないように見えますが、適格請求書発行事業者としての登録番号を記載することが大きな論点となります。

区分請求書適格請求書
請求書発行者の氏名又は名称適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
取引年月日取引年月日
取引内容(軽減税率の対象品目である旨)取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
税率ごとに区分して合計した税込対価の額税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
請求書受領者の氏名又は名称税率ごとに区分した消費税額等
書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
~2023年9月2023年10月~

適格請求書発行事業者は課税事業者でなければならない

適格請求書には適格請求書発行事業者となり、その氏名又は名称及び登録番号を書くことが必要となります。

適格請求書発行事業者への登録

適格請求発行事業者になるためには、税務署に申請し、登録される必要があります。

ここで注意が必要なことは、適格請求書発行事業者に登録するためには課税事業者とならなければならいことにあります。課税事業者となれば、事業者は消費税を申告し、納税する必要性が生じます。すなわち、今まで免税事業者であった場合、消費税の申告義務が新たに発生し、益税として得ていた利益は消費税として納税することになります。

4.適格請求書発行事業者になることのメリット・デメリット

インボイス制度により、適格請求書を受け取らなければ仕入税額控除を受けることはできません。このことが課税事業者と免税事業者のそれぞれにどのような影響を与えるかを説明します。

課税事業者への影響

課税事業者となっている事業者は適格請求書発行事業者として登録することによって特段のデメリットはないため、適格請求書発行事業者への登録は特に問題とならないと考えられます。

問題となるのは、仕入先に適格請求書発行事業者として登録しない免税事業者がいた場合です。