新リース基準の準備、「年明けから動けばいい」では遅い理由。実務タイムラインを整理する
1. 強制適用は2027年4月開始年度から。ただし準備はその前に終わらせる
新リース会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます。
3月決算会社であれば、原則として2027年4月1日に開始する2028年3月期から強制適用となります。
ここで誤解しやすいのが、「2028年3月期の決算までに対応すればよい」という考え方です。
新リース基準では、適用初年度の期首から、使用権資産、リース負債、リース台帳、会計方針、経過措置の選択を整理しておく必要があります。
つまり、3月決算会社であれば、2027年4月1日の開始時点で、少なくとも次の準備ができている状態を目指す必要があります。
- 対象契約の棚卸し
- リースを含む契約の識別
- 短期リース・少額リース等の方針
- 適用初年度の経過措置の選択
- 概算の使用権資産・リース負債
- 期首残高の考え方
- 月次・四半期決算で使うリース台帳
- 仕訳テンプレート
- 表示・注記の作成方針
- 監査法人・親会社・金融機関への説明資料
したがって、「2027年に入ってから考える」では遅くなる可能性があります。
2. 基準上の適用時期と、実務上の締切は違う
企業会計基準第34号第58項では、適用時期について、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用するとされています。
また、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することもできます。
これは「いつから会計基準を適用するか」という基準上の適用時期です。
一方で、実務上の締切はもっと前にあります。
なぜなら、適用初年度の期首時点で次の判断が必要になるためです。
- どの契約がリースを含むか
- どの契約を短期リース・少額リース等として簡便処理するか
- どの経過措置を選択するか
- 期首時点の使用権資産・リース負債をどう算定するか
- 適用初年度から月次・四半期決算でどう処理するか
会計基準の適用日は2027年4月1日以後開始年度の期首でも、準備作業はその前に進める必要があります。
3. 2026年5月から6月:影響度の把握フェーズ
3月決算会社が2028年3月期から強制適用する前提では、2026年5月から6月の段階で、まず影響度を把握することをおすすめします。
この時期に行うべき作業は、精密な計算ではありません。
まずは、影響が大きいか小さいか、どの部署が関係するか、外部説明が必要かを把握します。
具体的には、次の作業です。
- リース契約・賃貸借契約の棚卸し範囲を決める
- 契約書、請求書、固定資産台帳、支払データの所在を確認する
- 不動産、車両、設備、複合機、IT機器、倉庫、専用設備などの契約を洗い出す
- 月額支払額、残存期間、解約不能期間を一覧化する
- 短期リース・少額リースの候補を把握する
- 概算の使用権資産・リース負債を試算する
- 自己資本比率、ROA、EBITDA、営業CFへの影響を概算する
- 監査法人、親会社、金融機関への説明が必要か確認する
この段階では、完璧なリース台帳を作る必要はありません。
重要なのは、対象契約の全体像と影響額の方向感をつかむことです。
4. 2026年7月から9月:契約棚卸しと方針設計フェーズ
2026年7月から9月は、契約棚卸しを本格化させ、会計方針のたたき台を作る時期です。
新リース基準では、契約の名称だけでなく、契約がリースを含むかどうかを判断します。
企業会計基準第34号第25項・第26項、適用指針第33号第5項から第8項では、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合に、リースを含むと整理されています。
このため、次のような契約も確認対象になります。
- 不動産賃貸借契約
- 倉庫・物流拠点の利用契約
- 車両リース
- 複合機・サーバー・IT機器
- 生産設備・検査装置
- 専用設備を含む外部委託契約
- 店舗・営業所・駐車場
このフェーズでは、次の方針を整理します。
- リースを含む契約の判定方針
- 短期リースの取扱い
- 少額リースの取扱い
- リースを構成する部分とサービス部分の区分
- リース期間の判断
- 延長オプション・解約オプションの判断
- 割引率の設定方針
- 使用権資産・リース負債の算定方法
ここで方針が曖昧なままだと、後の計算や監査対応で手戻りが発生しやすくなります。
5. 2026年10月から12月:経過措置と計算体制を固めるフェーズ
2026年10月から12月は、経過措置の選択と計算体制を固める時期です。
適用指針第33号第118項では、適用初年度について、原則として新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用するとされています。
ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、期首残高から新たな会計方針を適用する方法も認められています。
この選択は、実務負担に大きく影響します。
また、適用指針第33号には、次のような経過措置があります。
- リース識別の経過措置:第119項
- 既存のファイナンス・リース取引に関する経過措置:第120項から第122項
- オペレーティング・リース取引等に関する経過措置:第123項から第125項
- セール・アンド・リースバック取引の経過措置:第126項
- IFRS適用会社又はその連結子会社の経過措置:第134項・第135項
この時期には、次の作業を進めます。
- 経過措置の選択肢を整理する
- 適用初年度の期首残高の算定方針を決める
- リース台帳の項目を確定する
- Excel又はシステムで計算できる状態にする
- 勘定科目と仕訳テンプレートを決める
- 月次・四半期決算の運用フローを作る
- 監査法人と主要な判断事項を協議する
- 財務指標への影響を経営層に説明する
外部専門家や監査法人への相談は、この時期以降に集中する可能性があります。
これは会計基準に書かれた事実ではなく実務上の見解ですが、契約棚卸し、影響額試算、経過措置の判断、監査対応を短期間で行うのは負担が大きいため、早めに相談先を確保することが望ましいと考えられます。
6. 2027年1月から3月:適用開始前の最終準備フェーズ
3月決算会社が2028年3月期から強制適用する場合、2027年1月から3月は、適用開始前の最後の準備期間です。
この時期は、まだ強制適用年度そのものではありません。
しかし、2027年4月1日の期首から新リース基準を適用するためには、ここまでに実務運用をほぼ固めておく必要があります。
具体的には、次の作業です。
- 2027年4月1日時点の期首残高の試算
- 重要契約の判定結果の確定
- 短期リース・少額リース方針の承認
- 経過措置の選択の確定
- リース台帳の初期登録
- 仕訳テスト
- 表示・注記のたたき台作成
- 監査法人への説明
- 親会社・金融機関・経営会議向け資料の準備
- 2027年4月以後の月次決算運用の確認
「2027年1月から契約書を集め始める」だと、2027年4月1日の期首適用に間に合わない可能性があります。
年明けから動けばいい、という考え方が危ない理由はここにあります。
7. 2027年4月以後:月次・四半期決算で実際に運用する
2027年4月1日以後開始する事業年度から適用する会社では、2027年4月以後、実際に新リース基準に基づく処理を行います。
この段階で必要になるのは、次のような運用です。
- 新規契約をリース台帳へ登録する
- 契約変更を反映する
- リース負債の利息計算を行う
- 使用権資産の償却を行う
- 支払リース料を元本相当額と利息相当額に分ける
- 月次・四半期仕訳を作成する
- 表示・注記に必要な情報を蓄積する
- 財務指標への影響を定期的に確認する
2028年3月期の年度決算で初めて対応するのではなく、2027年4月からの月次・四半期決算で運用できる状態にしておくことが重要です。
8. 最初の一手は、契約一覧の作成
新リース基準対応で最初に行うべき作業は、契約一覧の作成です。
いきなり精密な会計計算を始める必要はありません。
まずは、次の項目をExcelなどで整理します。
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 契約名 | 契約書・請求書上の名称 |
| 契約相手 | 貸手・サービス提供者 |
| 対象資産 | 不動産、車両、設備、IT機器など |
| 契約開始日 | 契約上の開始日 |
| 契約終了日 | 契約上の終了日 |
| 解約不能期間 | 実質的に解約できない期間 |
| 月額支払額 | リース料・賃借料・サービス料 |
| 延長オプション | 更新・延長の条件 |
| 解約オプション | 中途解約の可否と違約金 |
| 少額・短期候補 | 簡便的取扱いの候補 |
| 担当部署 | 契約管理部署 |
この一覧があれば、影響額の概算、会計方針の検討、監査法人への相談、外部支援への依頼が進めやすくなります。
逆に、契約一覧がない状態では、どの程度の作業量になるのかも判断できません。
9. まとめ
新リース会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます。
3月決算会社であれば、原則として2028年3月期から強制適用です。
ただし、実務上は、2027年4月1日の開始時点で、契約棚卸し、リース識別、経過措置の選択、期首残高の試算、リース台帳、月次決算運用を準備しておく必要があります。
そのため、2027年の年明けから動き始めるのでは遅くなる可能性があります。
まずは契約一覧を作り、自社への影響額と作業量を早めに把握することが重要です。
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根拠資料
- 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」第25項、第26項、第33項、第34項、第49項から第51項、第54項から第58項
- 企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」第5項から第8項、第20項、第22項、第118項から第126項、第134項、第135項


