IFRS16を適用済みの親会社を持つ子会社が見落としがちな新リース基準の論点
1. 「親会社が対応済みだから大丈夫」とは限らない
IFRS 16は、2019年1月1日以後開始する年次報告期間から適用されています。
そのため、IFRSを適用している親会社では、連結財務諸表や連結パッケージで、すでにリース契約のオンバランス処理に対応していることがあります。
ここで、子会社側でよく起きる誤解があります。
親会社がIFRS 16対応済みだから、日本子会社の新リース基準対応も終わっているはずだ。
この考え方には注意が必要です。
親会社のIFRS 16対応データは、日本子会社の新リース会計基準対応にとって有用な出発点になります。
しかし、日本基準で個別財務諸表を作成する場合には、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」と、企業会計基準適用指針第33号を前提に、別途確認すべき事項があります。
2. 連結パッケージと個別財務諸表は目的が違う
親会社向けのIFRS連結パッケージは、親会社の連結財務諸表を作るための資料です。
一方、日本子会社の個別財務諸表は、日本基準に基づいて作成されることがあります。
企業会計基準第34号では、連結財務諸表と個別財務諸表の両方に同様に適用する考え方が採られています。この点は、結論の背景BC20からBC21に整理されています。
したがって、親会社の連結パッケージ上でIFRS 16対応済みであっても、日本基準の個別財務諸表で次の点を確認する必要があります。
- 日本基準上のリース識別と整合しているか
- 日本基準の短期リース・少額リースの方針と整合しているか
- リース期間の判断が日本基準の方針と整合しているか
- 割引率の設定が個別財務諸表の方針と整合しているか
- セール・アンド・リースバック取引の扱いに差異がないか
- 経過措置をどう適用するか
- 監査法人や親会社への説明資料が整っているか
つまり、IFRS 16対応済みの親会社を持つ子会社では、「ゼロから始める」のではなく、「既存データを日本基準に照らして検証する」ことが重要です。
3. IFRS 16対応データは使える。ただし、そのまま使わない
親会社のIFRS 16対応で作成済みのデータには、実務上有用な情報が含まれています。
たとえば、次の情報です。
- リース契約一覧
- 賃貸借契約一覧
- 契約開始日・終了日
- 解約不能期間
- 延長オプション・解約オプション
- 月額リース料
- 割引率
- 使用権資産
- リース負債
- リース期間の判断メモ
- 連結パッケージ上の仕訳
これらは、日本基準対応でも再利用できる可能性があります。
しかし、注意すべきなのは、IFRS 16の金額をそのまま日本基準の個別財務諸表へ転記できるとは限らないことです。
企業会計基準第34号の開発方針では、IFRS 16のすべての定めを取り入れるのではなく、主要な定めの内容のみを取り入れる考え方が採られています。この点は、企業会計基準第34号BC13、適用指針第33号BC4からBC5に整理されています。
そのため、IFRS 16対応データを使う場合でも、日本基準との差分を確認する必要があります。
4. 見落としやすい論点1:リースの識別
リースの識別は、IFRS 16対応済みデータを使う場合でも再確認が必要です。
企業会計基準第34号では、契約の締結時に、契約がリースを含むか否かを判断します。
また、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、その契約はリースを含むとされています。
この判断は、企業会計基準第34号第25項・第26項、適用指針第33号第5項から第8項に整理されています。
実務上は、親会社の連結パッケージでリースとして登録されている契約について、次の点を確認します。
- 日本子会社が契約当事者か
- 対象資産が特定されているか
- サプライヤーに実質的な代替権がないか
- 使用から生じる経済的利益を享受する権利があるか
- 使用を指図する権利があるか
- リースを構成しないサービス部分が含まれていないか
特に、不動産賃貸借、倉庫、車両、設備、IT機器、専用ライン、外部委託契約などでは、契約名称だけで判断しないことが重要です。
5. 見落としやすい論点2:少額リースの扱い
IFRS 16と日本基準で誤解が生じやすいのが、少額リースです。
IFRS 16では、12か月超のリースについて、少額資産を除き、借手が資産・負債を認識する単一の借手会計モデルが採用されています。
一方、日本基準では、適用指針第33号第22項に、少額リースに関する簡便的な取扱いが定められています。
特に実務上重要なのは、次の2つです。
- リース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリース
- 新品時の原資産の価値が少額であるリース
いわゆる「300万円基準」は、旧リース適用指針にあった、リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下の取扱いを踏襲する目的で取り入れられたものです。この点は、適用指針第33号BC41からBC43に説明されています。
また、日本基準では、IFRS 16と同様の方法を認める目的で、新品時の原資産の価値が少額であるリースに関する取扱いも取り入れられています。この点は、適用指針第33号第22項(2)②とBC45に整理されています。
したがって、「IFRSでは少額、だから日本基準でも必ず少額」とは言えません。
逆に、「日本基準は300万円基準だけ」と考えるのも正確ではありません。
子会社の個別財務諸表では、どの簡便的な取扱いを選択し、どの単位で首尾一貫して適用するかを確認する必要があります。
6. 見落としやすい論点3:リース期間とオプション
IFRS 16対応済みの連結パッケージでは、すでにリース期間が設定されていることがあります。
しかし、日本基準の個別財務諸表でその期間をそのまま使えるかは確認が必要です。
適用指針第33号第17項では、借手のリース期間について、解約不能期間に、借手が行使することが合理的に確実である延長オプションの対象期間と、借手が行使しないことが合理的に確実である解約オプションの対象期間を加えて決定するとされています。
その判断では、次のような要因を確認します。
- 延長オプション・解約オプションの契約条件
- 違約金
- 大幅な賃借設備の改良
- 解約に関連して発生するコスト
- 事業内容に照らした原資産の重要性
- オプションの行使条件
親会社のIFRS 16対応で使っているリース期間が、日本子会社の事業実態や契約実態を十分に反映しているかを確認する必要があります。
7. 見落としやすい論点4:セール・アンド・リースバック
セール・アンド・リースバック取引がある会社では、特に注意が必要です。
日本基準の適用指針第33号では、セール・アンド・リースバック取引について、第53項から第58項に具体的な取扱いがあります。
また、結論の背景BC82からBC93では、セール・アンド・リースバック取引の範囲、売却に該当するかどうかの判断、IFRS 16との関係、フルペイアウトの場合の金融取引処理などが整理されています。
したがって、親会社のIFRS 16対応で処理済みのセール・アンド・リースバック取引がある場合でも、日本基準の個別財務諸表では次の点を確認する必要があります。
- そもそもセール・アンド・リースバック取引に該当するか
- 資産の譲渡が売却に該当するか
- リースバックによりフルペイアウトのリースに該当しないか
- 譲渡価額やリース料が時価・市場レートと大きくずれていないか
- 過年度に締結済みの取引について経過措置が使えるか
この論点は、金額が大きくなりやすく、監査上の説明も重くなりやすいため、早めに確認すべきです。
8. 見落としやすい論点5:IFRS適用会社・連結子会社の経過措置
IFRS 16対応済みの親会社を持つ子会社にとって重要なのが、適用指針第33号第134項です。
同項では、IFRSを連結財務諸表に適用している企業又はその連結子会社が、その個別財務諸表に新リース会計基準を適用する場合、会計基準の適用初年度において、一定の場合にIFRS 16の経過措置やIFRS第1号の免除規定を用いることができるとされています。
これは、IFRS 16対応済みのグループにとって実務上重要な定めです。
ただし、これは「親会社がIFRS 16対応済みなら、何もしなくてよい」という意味ではありません。
第134項を使えるかどうか、どのデータを使うか、適用初年度の期首残高をどう整理するか、セール・アンド・リースバック取引の経過措置をどう扱うかを確認する必要があります。
特に、第134項のただし書きでは、同項を適用する場合であっても、適用指針第33号第126項のセール・アンド・リースバック取引に関する取扱いを適用するとされています。
つまり、IFRS対応済みの会社ほど、既存データを活用できる一方で、経過措置の選択と差分整理が重要になります。
9. 実務でまず作るべき資料
IFRS 16対応済みの親会社を持つ子会社では、まず次の資料を作ることをおすすめします。
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| IFRS 16連結パッケージ契約一覧 | 既存データの把握 |
| 日本子会社の契約一覧 | 個別財務諸表に反映すべき契約の確認 |
| IFRS 16と日本基準の差分メモ | 流用できる項目と見直す項目を整理 |
| 短期リース・少額リース方針メモ | 簡便的取扱いの選択と首尾一貫性を整理 |
| リース期間判断メモ | 延長・解約オプションの判断根拠を整理 |
| セール・アンド・リースバック確認表 | 売却該当性、金融取引処理、経過措置を確認 |
| 監査法人・親会社説明資料 | 会計方針と差分の説明 |
ポイントは、IFRS 16対応データを否定することではありません。
むしろ、既存データを活用しながら、日本基準の個別財務諸表で必要な確認を追加することです。
10. まとめ
IFRS 16を適用済みの親会社を持つ子会社では、新リース基準対応が進めやすい面があります。
親会社の連結パッケージには、契約一覧、リース期間、割引率、使用権資産、リース負債などの有用な情報が既に存在することが多いためです。
しかし、それだけで日本基準の個別財務諸表対応が完了するわけではありません。
日本基準では、企業会計基準第34号と適用指針第33号に基づき、個別財務諸表への適用、少額リース、リース期間、セール・アンド・リースバック、経過措置を確認する必要があります。
特に、IFRSを連結財務諸表に適用している企業又はその連結子会社については、適用指針第33号第134項の経過措置を検討できる可能性があります。
親会社が対応済みだから安心するのではなく、親会社のデータを使いながら、日本基準の個別財務諸表でどこを確認すべきかを早めに整理することが重要です。
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根拠資料
- 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」第25項、第26項、第58項、BC13、BC20、BC21
- 企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」第4項(2)、第4項(11)、第5項から第8項、第17項、第20項、第22項、第23項、第53項から第58項、第126項、第134項、第135項、BC4、BC5、BC37からBC45、BC82からBC93
- IFRS Foundation “IFRS 16 Leases” 公式ページ About section


