新リース基準で自己資本比率・ROA・EBITDAはどう変わるか。財務指標への影響を整理する
1. 新リース基準は「経理だけの話」ではない
新リース会計基準の影響は、会計仕訳だけにとどまりません。
借手では、リース開始日に使用権資産とリース負債を計上することが求められます。これにより、貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書の見え方が変わる可能性があります。
その結果、次のような経営管理上の論点に影響することがあります。
- 自己資本比率
- ROA
- EBITDA
- 営業利益
- 営業キャッシュ・フロー
- 財務活動キャッシュ・フロー
- D/Eレシオ
- ネットデット/EBITDA
- 金融機関との財務制限条項
- 親会社や株主への説明資料
つまり、新リース基準対応は、経理部門だけで完結する作業ではありません。
財務指標、融資契約、社内KPI、予算管理、経営会議資料にどう反映されるかまで確認する必要があります。
2. B/Sへの影響:総資産と負債が増える
新リース会計基準では、借手はリース開始日に、リース負債と使用権資産を計上します。
リース負債は、原則として、リース開始日に未払である借手のリース料から利息相当額を控除し、現在価値により算定します。
この処理により、従来は貸借対照表に大きく表れにくかったオペレーティング・リースについても、B/S上に資産と負債が認識されることがあります。
自己資本比率への影響
自己資本比率は、一般に次のように計算されます。
自己資本比率 = 自己資本 ÷ 総資産
新リース基準により使用権資産が計上されると、総資産が増えます。
そのため、自己資本の金額が大きく変わらない場合、自己資本比率は低下方向に働きやすくなります。
ただし、影響額は会社ごとに異なります。
たとえば、次の要素により結果は変わります。
- 対象となるリース契約の規模
- 短期リース・少額リース等の簡便的な取扱いの適用範囲
- 移行時の会計処理
- 税効果会計の影響
- 既存の資産・負債構成
- 金融機関や社内KPIで使っている自己資本比率の定義
したがって、「新リース基準で自己資本比率が必ず何ポイント下がる」とは言えません。
重要なのは、主要なリース契約を集計し、自社の財務指標にどの程度の影響が出るかを事前に試算することです。
3. ROAへの影響:総資産の増加に注意する
ROAは、一般に次のように計算されます。
ROA = 利益 ÷ 総資産
新リース基準で使用権資産が計上されると、総資産が増えるため、ROAは低下方向に働きやすくなります。
ただし、ROAの分子にどの利益を使うかによって影響は異なります。
たとえば、次のような定義があります。
- 営業利益ベースのROA
- 経常利益ベースのROA
- 当期純利益ベースのROA
- EBITDAベースの資産効率指標
新リース基準では、従来の賃借料が、使用権資産の減価償却費とリース負債に係る利息費用に置き換わる場合があります。
そのため、利益指標への影響と総資産への影響を分けて確認する必要があります。
4. P/Lへの影響:賃借料が減価償却費と利息費用に変わる
借手の会計処理では、リース負債に係る利息相当額は、原則として利息法によりリース期間にわたって配分します。
また、使用権資産については、所有権移転の有無に応じて減価償却費を計上します。
その結果、従来は賃借料として処理していた支出が、新リース基準では次のように表示されることがあります。
- 使用権資産の減価償却費
- リース負債に係る利息費用
EBITDAへの影響
EBITDAは、一般に、利息、税金、減価償却費を控除する前の利益を意味します。
従来の賃借料が費用としてEBITDAから控除されていた会社では、新リース基準により、その一部が減価償却費と利息費用に置き換わることで、EBITDAが改善して見える場合があります。
ただし、これは事業の現金創出力が実際に改善したという意味ではありません。
支払うリース料の総額が同じであれば、現金流出の実態は変わりません。変わるのは、会計上の表示と指標の見え方です。
そのため、EBITDAを金融機関説明、M&A、社内KPI、役員報酬指標などに使っている会社では、定義を確認する必要があります。
5. 営業利益・経常利益への影響
営業利益への影響も、会社の表示方法や従来の処理により異なります。
従来、賃借料を販売費及び一般管理費や売上原価に含めていた場合、新リース基準では、減価償却費と利息費用に分かれることがあります。
このとき、利息費用が営業外費用として表示される場合には、営業利益が改善して見えることがあります。
一方で、減価償却費は営業費用に含まれることが多いため、営業利益への影響は契約内容、費用配分、表示区分により異なります。
経常利益や当期純利益についても、リース期間の前半に利息費用が大きくなりやすい契約では、従来の定額の賃借料処理と比べて期間損益の見え方が変わることがあります。
ここでも重要なのは、「利益がよくなる」「悪くなる」と単純に判断しないことです。
会計基準変更による表示上の影響と、事業活動そのものの変化を分けて説明する必要があります。
6. キャッシュ・フローへの影響:営業CFがよく見える場合がある
新リース基準は、キャッシュ・フロー計算書の見え方にも影響します。
借手の支払リース料については、元本相当額と利息相当額に分けて表示されます。
移管指針第6号では、借手の支払リース料のうち、リース負債の元本相当額の支払額は財務活動によるキャッシュ・フローに区分し、利息相当額の支払額は選択した利息支払額の表示区分に含めることとされています。
このため、従来は営業活動によるキャッシュ・フローに含まれていた支払の一部が、財務活動によるキャッシュ・フローに移ることがあります。
その結果、営業キャッシュ・フローが改善して見える場合があります。
ただし、ここでも注意が必要です。
営業キャッシュ・フローが改善して見えても、実際の現金流出額が減るわけではありません。
会計上の表示区分が変わるだけで、会社が支払うリース料の総額そのものは契約に従って発生します。
そのため、金融機関や経営会議に説明する際には、次のように整理することが重要です。
- 営業CFの増減
- 財務CFの増減
- 現金流出総額
- 会計基準変更による表示上の影響
- 本業の資金創出力の変化
7. 財務制限条項・金融機関説明で注意すべき点
新リース基準の影響は、融資契約にも関係することがあります。
特に、融資契約や社債契約に次のような財務制限条項がある場合は注意が必要です。
- 自己資本比率
- 純資産額
- 有利子負債
- D/Eレシオ
- ネットデット/EBITDA
- EBITDA倍率
- 営業キャッシュ・フロー
会計基準の変更により、財務指標が形式的に変動する場合があります。
そのため、まず確認すべきなのは、契約上の指標定義です。
たとえば、次の点を確認します。
- リース負債を有利子負債に含めるか
- EBITDAの計算で新リース基準の影響を調整するか
- 会計基準変更時の取扱いが契約書に定められているか
- 旧基準ベースでの計算を求められるか
- 金融機関への事前説明が必要か
金融機関との関係では、「交渉すれば必ず除外できる」と考えるのは危険です。
契約書の内容、金融機関の方針、会社の信用状況、説明資料の精度によって対応は変わります。
ただし、会計基準変更による形式的な指標変動であれば、早めに影響額を試算し、根拠を示して説明することで、不要な誤解を避けやすくなります。
8. まず確認すべき財務指標
新リース基準対応では、会計処理の検討と並行して、次の指標への影響を確認することをおすすめします。
| 区分 | 確認すべき指標 |
|---|---|
| 安全性 | 自己資本比率、D/Eレシオ、純有利子負債 |
| 収益性 | ROA、営業利益率、経常利益率 |
| キャッシュ・フロー | 営業CF、財務CF、フリーCF |
| 金融機関対応 | コベナンツ指標、借入契約上の有利子負債、EBITDA倍率 |
| 経営管理 | 予算KPI、部門別損益、役員会・取締役会資料の指標 |
ポイントは、財務諸表の表示だけでなく、社内外で使っている指標定義まで確認することです。
会計基準変更により数字が変わる場合でも、その変化が事業実態の変化なのか、表示方法の変化なのかを説明できるようにしておく必要があります。
9. 最初に作るべき影響試算
新リース基準対応で、財務指標への影響を確認するには、まず簡易的な影響試算を作ることが有効です。
最初から精密な会計計算を行う必要はありません。
初期段階では、次の情報を整理します。
- リース契約一覧
- 賃貸借契約一覧
- 解約不能期間
- 延長オプション・解約オプション
- 月額支払額
- 契約総額
- 短期リース・少額リース等の簡便的取扱いの候補
- 概算の使用権資産
- 概算のリース負債
- 自己資本比率への影響
- ROAへの影響
- EBITDAへの影響
- 営業CF・財務CFへの影響
- 金融機関説明が必要な契約の有無
この段階で重要なのは、細かい端数よりも「どの指標に、どの程度の方向感で影響が出るか」を把握することです。
影響が大きい契約や、金融機関説明に関係する契約が見つかった場合には、次の段階で詳細計算に進みます。
10. まとめ
新リース基準では、借手のリースについて、使用権資産とリース負債の計上が求められます。
その結果、自己資本比率、ROA、EBITDA、営業利益、キャッシュ・フロー、財務制限条項などに影響する可能性があります。
ただし、その影響は会社ごとに異なります。
重要なのは、会計基準変更による表示上の変化と、事業活動そのものの変化を分けて説明することです。
特に、金融機関、親会社、株主、経営会議に財務指標を説明する会社では、早い段階で影響試算を行い、指標定義と契約条項を確認しておく必要があります。
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根拠資料
- 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」第33項、第34項、第36項、第37項、第38項、第49項、第50項、第51項、第54項
- 移管指針第6号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」第34項


