新リース基準の会計方針書には何を書くべきか
会計方針書は、判断の軸を固定する資料
新リース基準対応では、契約一覧を作るだけでは足りません。
どの契約をリースとして識別するのか、どの契約を短期リース・少額リースとして整理するのか、リース期間や割引率をどのように決めるのかを、会社として説明できる形にしておく必要があります。
そのために有効なのが、会計方針書又は会計方針メモです。
ここでいう会計方針書とは、新リース基準の適用にあたり、自社が継続して使う判断基準、計算前提、運用ルールを整理した社内資料を指します。
会計方針書は、基準本文の様式そのものではありません。実務上、監査法人、親会社、経理部門、各拠点に対して「なぜその処理にしたのか」を説明するための資料として作成します。
まず対象範囲と作成単位を決める
最初に決めるべきことは、どの会社、どの財務諸表、どの期間を対象にするかです。
例えば、上場会社の連結子会社であれば、親会社の連結方針との整合も確認が必要です。単独上場会社や会計監査人設置会社であれば、個別財務諸表での適用方針を整理する必要があります。
会計方針書の冒頭には、少なくとも次の項目を入れておくと使いやすくなります。
- 対象会社
- 対象財務諸表
- 対象事業年度
- 連結グループ方針との関係
- 監査法人又は親会社との確認状況
- この資料の承認者、作成者、更新日
新リース基準では、適用初年度の前に契約棚卸し、期首残高、会計方針、表示・注記の準備が必要になります。準備タイムラインについては、以下の記事でも整理しています。
新リース基準の準備、「年明けから動けばいい」では遅い理由。実務タイムラインを整理する
リース識別の方針を書く
会計方針書で最も重要なのは、リースを含む契約をどのように識別するかです。
企業会計基準第34号第25項では、契約の締結時に、その契約がリースを含むかどうかを判断するとされています。また、第26項では、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、契約はリースを含むとされています。
リース識別とは、契約名が「リース契約」かどうかを見ることではありません。契約の中に、特定された資産を使う権利と、その使用を支配する権利が含まれているかを確認する作業です。
会計方針書には、次のような方針を記載します。
- どの勘定科目や支払データから候補契約を抽出するか
- 不動産、車両、設備、複合機、IT機器、倉庫などを確認対象にするか
- 外部委託契約やサービス契約の中に資産使用が含まれる場合をどう確認するか
- 契約書がない取引や自動更新契約をどう扱うか
- リースを含まないと判断した場合の根拠をどこに残すか
契約一覧に入れる項目については、以下の記事も参考になります。
リース部分とサービス部分を分ける方針を書く
契約の中には、リース部分とサービス部分が混在するものがあります。
例えば、車両リースにメンテナンスサービスが含まれる場合や、設備利用契約に保守サービスが含まれる場合です。
企業会計基準第34号第28項では、リースを含む契約について、原則としてリースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理を行うとされています。
一方で、第29項では、借手について、一定の単位ごとに、リース部分と関連する非リース部分を分けずに合わせて会計処理する選択も認められています。
会計方針書では、次の点を整理します。
- リース部分とサービス部分を原則として区分するか
- 区分しない選択を使う場合、どの資産グループに適用するか
- 保守料、共益費、固定資産税相当額、保険料相当額などをどのように確認するか
- 契約書や請求書で金額が分かれていない場合の確認手順
この方針が曖昧なままだと、使用権資産・リース負債の計算対象額が会社内でばらつきます。
リース期間の判断方針を書く
リース期間は、使用権資産・リース負債の金額に大きく影響します。
企業会計基準第34号第31項では、借手のリース期間について、解約不能期間に加え、延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが合理的に確実な期間を考慮する考え方が示されています。
会計方針書には、次のような判断材料を入れておきます。
- 契約書上の契約期間
- 解約不能期間
- 自動更新条項の有無
- 延長オプション、解約オプションの有無
- 内装投資や移転コストの有無
- 代替物件や代替設備の有無
- 事業上、その資産を継続利用する必要性
- 親会社や監査法人に確認すべき判断事項
リース期間の見積もりについては、以下の記事で詳しく整理しています。
新リース基準で計上額を大きく左右する「リース期間の見積もり」の実務判断ポイント
短期リース・少額リースの方針を書く
短期リースや少額リースは、実務負担を下げるために重要な論点です。
ただし、最初から契約一覧から外してよいという意味ではありません。
会計方針書には、次のような項目を整理します。
- 短期リース候補の判定方法
- 少額リース候補の判定方法
- 300万円基準を使う場合の契約単位
- 同種契約が多数ある場合の確認方法
- 候補判定と最終判定を分ける運用
- 監査法人又は親会社への確認が必要なケース
少額リース300万円基準については、以下の記事でも整理しています。
日本独自の「少額リース300万円基準」とは。IFRS16とは異なるルールを実務的に解説
使用権資産・リース負債の計算方針を書く
会計方針書には、計算方法も記載しておく必要があります。
企業会計基準第34号第33項・第34項では、借手はリース開始日にリース負債と使用権資産を計上し、リース負債は原則として未払リース料から利息相当額を控除した現在価値により算定する考え方が示されています。
実務上は、次の項目を決めておきます。
- どの支払額をリース料に含めるか
- 固定リース料、変動リース料、購入オプション、解約違約金をどう確認するか
- 割引率をどのように設定するか
- 付随費用や資産除去債務に対応する除去費用をどう扱うか
- 使用権資産の償却方法
- リース負債の利息計算方法
- Excelで計算するか、システムで管理するか
最初の段階では、全契約を精密に計算する前に、影響額を概算して対応範囲を決めることも有効です。
契約変更・見直しの方針を書く
新リース基準対応は、初年度だけで終わる作業ではありません。
契約変更、賃料改定、延長、解約、拠点移転、設備入替などが発生した場合、リース台帳や計算結果の見直しが必要になることがあります。
企業会計基準第34号第39項から第42項では、リースの契約条件の変更や、契約条件の変更を伴わないリース負債の見直しに関する定めが置かれています。
会計方針書には、次のような運用を入れておくと実務で使いやすくなります。
- 契約変更があった場合に経理へ連絡する部署
- 月次又は四半期で確認する変更事項
- リース期間を見直すトリガー
- 賃料改定、解約、延長、更新時の確認手順
- 監査法人へ相談する判断基準
表示・注記の方針を書く
会計方針書では、仕訳や計算だけでなく、表示・注記の方針も整理します。
企業会計基準第34号第49項から第58項では、借手の表示、注記事項、開示目的、適用時期などが定められています。
実務上は、次のような項目を決めておくと、決算時の手戻りを減らせます。
- 使用権資産の表示科目
- リース負債の表示科目
- 利息費用の表示方法
- 注記作成に必要な情報
- リース台帳から注記情報をどのように集計するか
- 連結パッケージや親会社報告との整合
会計方針書に入れる項目の例
実務では、次のような構成にすると使いやすくなります。
| 項目 | 書く内容 | 確認先 |
|---|---|---|
| 対象範囲 | 対象会社、対象財務諸表、対象年度、グループ方針との関係 | 親会社、監査法人、経理責任者 |
| リース識別 | 候補契約の抽出方法、特定された資産、使用を支配する権利の確認方法 | 経理、総務、購買、各拠点 |
| リース期間 | 解約不能期間、延長オプション、解約オプション、合理的に確実な期間の判断 | 契約担当部署、監査法人 |
| 短期・少額リース | 候補判定、最終判定、300万円基準、同種契約の確認方法 | 経理、親会社、監査法人 |
| 計算方針 | リース料、割引率、使用権資産、リース負債、償却、利息計算 | 経理、会計システム担当 |
| 変更管理 | 契約変更、賃料改定、延長、解約、リース負債見直しの手順 | 経理、契約管理部署 |
| 表示・注記 | 表示科目、注記情報、集計方法、連結報告との整合 | 経理、監査法人、親会社 |
よくある失敗
会計方針書を作らないまま作業を進めると、次のような問題が起きやすくなります。
- 担当者ごとにリース識別の判断がばらつく
- 短期リース・少額リースの候補を最初から除外してしまう
- リース期間の判断理由が残らない
- 割引率や計算対象額の決め方を説明できない
- 契約変更があったときに台帳へ反映されない
- 決算時に表示・注記の情報が足りない
重要なのは、最初から完璧な方針書を作ることではありません。
まずは主要論点をたたき台として整理し、契約一覧、影響額試算、監査法人確認を通じて更新していくことです。
まとめ
新リース基準の会計方針書には、単なる会計処理の結論だけでなく、判断の前提、対象範囲、例外処理、計算方法、変更管理、表示・注記まで整理しておく必要があります。
特に重要なのは、次の項目です。
- リース識別の方針
- リース部分とサービス部分の区分
- リース期間の判断
- 短期リース・少額リースの取扱い
- 使用権資産・リース負債の計算方針
- 契約変更・見直しの運用
- 表示・注記の作成方針
会計方針書は、社内の判断を統一し、監査法人や親会社に説明しやすくするための実務資料です。
契約一覧や影響額試算と合わせて早めに作成しておくと、初年度対応の手戻りを減らしやすくなります。
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