新リース基準の移行方法、完全遡及と修正遡及はどちらを選ぶべきか

1. 結論:多くの会社では、まず修正遡及を軸に検討するのが現実的

新リース会計基準の適用初年度では、過去の期間にどこまで遡って新基準を適用するかが重要な論点になります。

企業会計基準適用指針第33号第118項では、適用初年度について、原則として新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用するとされています。

一方で、同じ第118項では、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用する方法も認められています。

実務上は、後者のいわゆる修正遡及アプローチを軸に検討する会社が多いと考えられます。

ただし、修正遡及を選べば何もしなくてよいわけではありません。契約一覧の整備、リース識別、期首時点のリース負債・使用権資産の試算、監査法人や親会社への説明が必要になります。

2. 完全遡及と修正遡及の違い

新リース会計基準の移行方法は、大きく次の2つの考え方で整理できます。

項目 完全遡及アプローチ 修正遡及アプローチ
考え方 過去の期間にも新基準を遡及適用する 適用初年度の期首に累積的影響額を反映する
比較情報 比較情報も新基準ベースに組み替える 比較情報を組み替えない
メリット 期間比較がしやすい 実務負担を抑えやすい
デメリット 過年度契約の再計算・資料収集の負担が大きい 適用初年度前後で比較数値の前提が異なる
向いている会社 比較可能性を重視する会社、過年度データが整っている会社 契約件数が多い会社、過年度データの再整備が重い会社

ここで重要なのは、単に「楽だから修正遡及」と決めるのではなく、財務諸表利用者への説明、親会社方針、監査法人との協議、契約件数、データ整備状況を踏まえて判断することです。

3. 修正遡及が現実的な選択肢になりやすい理由

中堅企業や上場子会社では、修正遡及が現実的な選択肢になりやすいと考えられます。

理由は、完全遡及を行う場合、過去のリース契約について、当時の契約条件、支払条件、リース期間、更新オプション、解約オプション、割引率などを遡って確認する必要があるためです。

契約件数が多い会社では、この作業負担はかなり大きくなります。

一方、修正遡及を選ぶ場合でも、次の作業は必要です。

  • 適用初年度の期首時点で有効な契約の洗い出し
  • リースを含む契約かどうかの識別
  • 短期リース・少額リースの整理
  • リース期間の判断
  • 使用権資産・リース負債の期首残高の試算
  • 利益剰余金への影響額の整理
  • 監査法人・親会社・金融機関への説明資料の作成

つまり、修正遡及は「対応不要」という意味ではなく、過去期間の比較情報を組み替えないことで、実務負担を抑えるための選択肢と考えるべきです。

4. 修正遡及を選ぶ場合の説明コスト

修正遡及を選ぶと、適用初年度の前後で比較数値の前提が異なります。

たとえば、前期は従来基準、当期は新リース会計基準という形になるため、次のような説明が必要になります。

  • 使用権資産とリース負債が増加した理由
  • 自己資本比率やROAが変動した理由
  • EBITDAや営業利益への見え方が変わる理由
  • 前期比較を行う際の留意点
  • 期首利益剰余金への影響

したがって、修正遡及を選ぶ場合でも、財務諸表利用者に対する説明資料を早めに準備しておく必要があります。

5. 経過措置で確認すべき主な項目

新リース会計基準の移行では、適用指針第33号第118項から第126項に、いくつかの経過措置が整理されています。

主な確認項目は次のとおりです。

論点 主な根拠 確認内容
遡及適用方法 適用指針第33号第118項 原則的な遡及適用と、累積的影響額を期首利益剰余金に反映する方法
リース識別 適用指針第33号第119項 適用初年度におけるリース識別の経過措置
既存のファイナンス・リース取引 適用指針第33号第120項から第122項 旧基準で処理していた既存リースの取扱い
既存のオペレーティング・リース取引等 適用指針第33号第123項から第125項 適用初年度の期首時点での取扱い
セール・アンド・リースバック取引 適用指針第33号第126項 過年度取引を含む場合の確認
IFRS適用会社又はその連結子会社 適用指針第33号第134項・第135項 IFRS 16対応済みデータを活用できる可能性と留意点

特に、IFRS 16を適用している親会社を持つ子会社では、適用指針第33号第134項・第135項の検討が重要になります。

ただし、IFRS 16対応済みのデータをそのまま日本基準の個別財務諸表へ転記できるとは限りません。日本基準との差分、セール・アンド・リースバック取引、少額リース、リース期間、表示・注記などを確認する必要があります。

6. どちらを選ぶべきか

移行方法は、次の観点で判断するのが現実的です。

判断項目 完全遡及を検討しやすい場合 修正遡及を検討しやすい場合
過年度データ 過去契約・支払情報が十分に整っている 過年度データの再整備が重い
契約件数 契約件数が比較的少ない 契約件数が多い
比較可能性 期間比較を重視する 実務負担の軽減を重視する
親会社方針 親会社が比較情報の組替えを求める 親会社も修正遡及を前提としている
監査対応 監査上、過年度比較の必要性が高い 期首残高と注記説明で対応する方針
説明資料 比較情報を組み替えて説明したい 適用初年度の変動理由を説明する

中堅企業・上場子会社では、修正遡及を軸に検討しつつ、親会社方針、監査法人の見解、契約件数、過年度データの整備状況を踏まえて決めるのが現実的です。

7. 早めに決めるべき理由

移行方法は、適用初年度の直前に決めればよいものではありません。

理由は、移行方法によって必要な作業が変わるためです。

完全遡及を選ぶ場合は、過年度の比較情報を組み替えるため、過去の契約情報や支払情報を広く集める必要があります。

修正遡及を選ぶ場合でも、適用初年度の期首時点の契約一覧、リース識別、リース期間、割引率、期首残高の試算が必要になります。

したがって、少なくとも次の資料は早めに準備しておくべきです。

  • 契約一覧
  • リース識別メモ
  • 経過措置の選択メモ
  • 期首残高の概算試算表
  • 監査法人・親会社向け説明メモ
  • 財務指標への影響メモ

8. まとめ

新リース会計基準の移行方法では、完全遡及と修正遡及のどちらを選ぶかが、初年度対応の実務負担を大きく左右します。

完全遡及は、期間比較がしやすい一方で、過年度契約の再計算や比較情報の組替えが重くなります。

修正遡及は、実務負担を抑えやすい一方で、適用初年度前後の比較に注意が必要です。

多くの中堅企業・上場子会社では、修正遡及を軸に検討するのが現実的ですが、親会社方針、監査法人との協議、契約件数、過年度データの整備状況を踏まえて判断する必要があります。

移行方法は、単なる経理処理ではなく、初年度対応の作業量、説明資料、監査対応に影響する重要な判断です。早めに方針を決め、契約一覧と期首影響額の整理を進めることが重要です。

参考にした主な根拠

  • 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」第58項
  • 企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」第118項から第126項、第134項、第135項

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