新リース基準で計上額を大きく左右する「リース期間の見積もり」の実務判断ポイント
1. 結論:リース期間は計上額を左右する重要な見積もり
新リース会計基準では、リース期間の見積もりが、使用権資産とリース負債の計上額を大きく左右します。
リース期間を長く見積もれば、原則として、将来支払うリース料の対象期間が長くなり、リース負債や使用権資産の金額は大きくなりやすくなります。
一方、リース期間を短く見積もれば、計上額は小さくなりやすくなります。
ただし、リース期間は、会社が自由に決められる任意の見積もりではありません。
企業会計基準第34号第15項・第31項、企業会計基準適用指針第33号第17項に基づき、解約不能期間、延長オプション、解約オプション、経済的インセンティブを踏まえて判断する必要があります。
2. リース期間の定義
企業会計基準第34号第15項では、借手のリース期間を、次の期間として定義しています。
- 借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間
- 借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間
- 借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間
また、企業会計基準第34号第31項でも、借手のリース期間は、解約不能期間に、これらの延長オプション・解約オプションの対象期間を加えて決定するとされています。
ここで注意すべきなのは、解約オプションの扱いです。
解約オプションがある場合に、単純にその期間を差し引くのではありません。
借手が解約オプションを行使しないことが合理的に確実であれば、その解約オプションの対象期間もリース期間に含めます。
たとえば、5年契約で、3年目に借手だけが解約できる契約があるとします。
この場合、3年目で解約することが前提なのか、解約せず5年間使い続けることが合理的に確実なのかを判断します。
解約しないことが合理的に確実であれば、リース期間は5年として判断する方向になります。
3. 「合理的に確実」とは何か
リース期間の判断で最も重要なのが、「合理的に確実」という考え方です。
これは、単に経営者が「たぶん延長すると思う」と考えている、というだけでは足りません。
適用指針第33号BC29からBC34では、「合理的に確実」は蓋然性が相当程度高いことを示す考え方として整理されています。
蓋然性とは、ある事象が起こる可能性の高さを意味します。
つまり、延長する可能性が何となくありそう、という程度ではなく、契約条件や事業上の事情から見て、延長する又は解約しないことについて、相当程度高い確からしさが必要です。
なお、「合理的に確実」は、何パーセント以上なら該当するという数値基準ではありません。
会社の事業内容、契約条件、投資状況、移転可能性などを踏まえて、合理的に説明できる判断が必要です。
4. 判断で見るべき5つの要素
適用指針第33号第17項では、延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが合理的に確実かどうかを判定するにあたり、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮するとされています。
経済的インセンティブとは、会社が延長又は継続使用を選びやすくなる経済的な理由です。
同項では、たとえば次の要因が挙げられています。
- 延長オプション又は解約オプションの対象期間に係る契約条件
- 大幅な賃借設備の改良の有無
- リースの解約に関連して生じるコスト
- 企業の事業内容に照らした原資産の重要性
- 延長オプション又は解約オプションの行使条件
実務では、この5つをチェックリスト化して、重要な契約ごとに判断根拠を残すことが重要です。
5. 延長オプションを含める可能性が高いケース
次のような場合には、延長オプションを行使することが合理的に確実と判断される可能性があります。
- 多額の内装投資や設備投資をした店舗
- 移転すると営業停止や売上減少が見込まれる拠点
- 特定の立地でなければ事業運営が難しい店舗・事務所
- 専用設備が設置され、他の場所で使いにくい倉庫・工場
- 解約時の原状回復費、違約金、移転費用が大きい契約
- 市場賃料より有利な条件で延長できる契約
- 親会社、主要顧客、物流網、許認可との関係で移転が難しい拠点
たとえば、店舗に多額の内装投資を行い、契約期間終了後も同じ場所で営業を続ける経済的な理由が強い場合、契約上の当初期間だけでなく、延長オプション期間もリース期間に含める可能性があります。
一方で、汎用的な事務所で、移転コストが小さく、代替物件も容易に見つかる場合には、延長オプションを含める根拠が弱いこともあります。
6. 契約書の期間だけで判断しない
リース期間は、契約書に書かれた期間だけで機械的に決まるものではありません。
もちろん、契約書上の解約不能期間は出発点になります。
しかし、新リース基準では、それに加えて、延長オプションや解約オプションについて、借手が実際にどのような経済的インセンティブを持っているかを確認します。
実務上は、次の資料を確認します。
- 賃貸借契約書、リース契約書、使用許諾契約書
- 契約更新条項、解約条項、違約金条項
- 内装工事、設備投資、原状回復義務に関する資料
- 店舗別、拠点別、設備別の収益性資料
- 移転コスト、代替物件、代替設備に関する検討資料
- 過去の更新実績、移転実績
- 事業計画、出店計画、拠点戦略
「契約書上は3年だからリース期間も3年」と即断するのではなく、契約条件と事業実態を合わせて判断する必要があります。
7. 計上額への影響
リース期間は、使用権資産とリース負債の計上額に直接影響します。
企業会計基準第34号第33項・第34項では、借手はリース開始日に使用権資産とリース負債を計上するとされています。
リース負債は、借手のリース料の現在価値により算定します。
そのため、リース期間が長くなれば、現在価値計算に含めるリース料の期間も長くなり、リース負債の金額が大きくなりやすくなります。
また、企業会計基準第34号第37項・第38項では、使用権資産の償却について、原則として借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして償却する考え方が示されています。
つまり、リース期間は、貸借対照表の資産・負債だけでなく、損益計算書の償却費にも影響します。
8. リース期間は後から見直すことがある
リース期間の判断は、リース開始日に一度決めたら絶対に変わらない、というものではありません。
企業会計基準第34号第40項から第42項では、契約条件の変更が生じていない場合でも、一定の場合にリース期間やリース負債の見直しを行うことが整理されています。
特に、第41項では、借手の統制下にあり、延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかの判断に影響する重要な事象又は重要な状況が生じたときに、リース期間を見直すことが示されています。
たとえば、次のようなケースでは見直しが必要になる可能性があります。
- 当初は短期利用予定だった拠点に、大規模な追加投資を行った
- 重要な顧客との契約により、その拠点の継続利用が必要になった
- 移転計画を撤回し、同じ物件を長期利用する方針に変わった
- 解約予定だった設備について、事業上の重要性が高まった
適用指針第33号第46項では、リース期間に変更がある場合、リース負債を修正し、その修正額に相当する金額を使用権資産に加減することが整理されています。
そのため、リース期間の見積もりは、初年度対応だけでなく、その後の運用管理にも関係します。
9. 重要な契約から優先して判断する
リース期間の判断は、すべての契約について同じ深さで検討すると、実務負担が大きくなります。
そのため、実務上は、重要性の高い契約から優先して判断することが現実的です。
たとえば、次のような契約を先に確認します。
- 月額リース料・賃料が大きい契約
- 契約期間が長い契約
- 延長オプションや解約オプションがある契約
- 店舗、工場、倉庫、本社など事業上重要な拠点
- 多額の内装投資・設備投資を伴う契約
- 金融機関説明や監査上の影響が大きい契約
「上位20件から確認する」といった進め方は、実務上の入口として有効です。
ただし、これは会計基準上の一律ルールではありません。
会社の契約件数、金額規模、監査対象かどうか、親会社報告の有無に応じて、対象範囲と判断の深さを決める必要があります。
10. 小規模契約はどう扱うか
小規模な契約については、「簡便的に処理すればよい」とだけ考えるのは危険です。
新リース会計基準には、短期リースや少額リースについて、一定の簡便的な取扱いがあります。
ただし、これらは会社が自由に対象外にできるという意味ではありません。
要件を満たすか、会計方針としてどの取扱いを選択するか、監査人との協議が必要かを確認する必要があります。
たとえば、少額リースの簡便的取扱いについては、適用指針第33号第22項・第23項に整理されています。
第23項では、リース契約1件当たりの金額の算定の基礎となる対象期間は、原則として借手のリース期間とされています。
一方で、同項ただし書きにより、延長オプション及び解約オプションの行使可能性を判断せず、契約に定められた期間とすることもできるとされています。
つまり、少額リースの判断でも、リース期間の考え方は無関係ではありません。
簡便的取扱いを使う場合でも、どの規定に基づいて処理したかを記録しておく必要があります。
11. 判断根拠のドキュメント化が重要
リース期間の見積もりでは、結論そのものだけでなく、判断根拠を残すことが重要です。
監査対応や親会社報告では、「なぜこの期間をリース期間と判断したのか」を説明できる必要があります。
最低限、次のような情報を残しておくと実務上有用です。
- 契約名、契約番号、対象資産
- 解約不能期間
- 延長オプション、解約オプションの有無
- オプションの対象期間
- 延長又は解約しないことが合理的に確実かどうかの判断
- 判断に用いた経済的インセンティブ
- 内装投資、移転コスト、違約金、原状回復費の有無
- 判断日、判断者、承認者
- 監査人・親会社との協議状況
リース期間の見積もりは、会計上の判断です。
したがって、経理部門だけでなく、総務、店舗開発、購買、情報システム、事業部門から契約情報や事業上の必要性を集める必要があります。
12. まとめ
新リース会計基準では、リース期間の見積もりが使用権資産・リース負債の計上額を大きく左右します。
リース期間は、契約書上の期間だけで機械的に決まるものではありません。
企業会計基準第34号第15項・第31項に基づき、解約不能期間に、合理的に確実な延長オプション期間と、解約オプションを行使しないことが合理的に確実な期間を加えて判断します。
また、適用指針第33号第17項に基づき、契約条件、設備投資、解約コスト、原資産の重要性、オプション行使条件などを確認する必要があります。
重要な契約から優先して判断し、判断根拠をドキュメント化しておくことが、監査対応・親会社報告・金融機関説明の実務では重要です。
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根拠資料
- 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」第15項、第31項、第33項、第34項、第37項、第38項、第40項から第42項
- 企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」第17項、第22項、第23項、第46項、BC29からBC34、BC41からBC44

