新リース基準の契約一覧とリース判定メモの作り方
新リース会計基準対応では、契約一覧は「対象外にする契約を消すための表」ではありません。
むしろ、どの契約を確認し、どの理由でリースに該当する可能性があると考えたか、又は短期リース・少額リースなどの候補として整理したかを、後から説明できるようにするための実務資料です。
特に上場会社の子会社、中堅企業、会計監査人設置会社では、経理部門だけでなく、親会社、監査法人、各拠点、情報システム部門などと確認しながら進めることが多くなります。そのため、契約一覧とリース判定メモを分けて整備しておくと、手戻りを減らしやすくなります。
結論:契約一覧は、判断の入口を残す資料
新リース会計基準対応で最初に作る契約一覧は、会計処理の最終結論を確定するためだけの資料ではありません。
最初の段階では、次のような目的で使います。
- 調査対象にした契約の範囲を明確にする
- リースを含む可能性がある契約を見落とさない
- 短期リース、少額リース、300万円基準の候補を分ける
- 親会社や監査法人に確認すべき論点を整理する
- 影響額試算、会計方針、システム導入判断につなげる
そのため、最初から「これは対象外」として一覧から削除するのではなく、いったん候補として残し、判断理由を記録していく方が実務上安全です。
契約一覧とリース判定メモを分ける理由
契約一覧は、契約ごとの基本情報を横並びで確認するための表です。一方、リース判定メモは、なぜその契約をそのように整理したのかを残すための記録です。
ここでいうリース判定メモとは、リース識別、リース期間、短期リース・少額リース候補、300万円基準候補などについて、会社がどの前提で判断したかを残す内部メモをいいます。
例えば、契約一覧には「月額」「契約期間」「更新条項」「資産の種類」などを入れます。リース判定メモには、「短期リース候補とした理由」「300万円基準の判定で確認した前提」「監査法人に確認予定の論点」などを残します。
この2つを混ぜすぎると、一覧が読みにくくなります。逆に、リース判定メモを作らないと、後から同じ結論にたどり着けなくなることがあります。
契約一覧に入れる基本項目
契約一覧には、少なくとも次のような項目を入れておくと、後続の判断に使いやすくなります。
| 区分 | 項目例 | 使い道 |
|---|---|---|
| 契約情報 | 契約名、相手先、契約開始日、契約満了日、自動更新条項 | 調査対象範囲と契約期間を確認する |
| 支払情報 | 月額、年額、支払頻度、初期費用、維持管理費用相当額 | リース料、少額リース候補、影響額試算の基礎にする |
| 資産情報 | 資産種類、設置場所、資産番号、特定された資産の有無 | リースを含む契約かどうかを検討する |
| 利用条件 | 専用利用、入替権、使用方法の決定権、使用量制限 | 使用を支配する権利があるかを検討する |
| リース期間 | 解約不能期間、延長オプション、解約オプション、違約金 | 借手のリース期間を見積もるための材料にする |
| 簡便的取扱い候補 | 短期リース候補、少額リース候補、300万円基準候補 | 会計方針や監査法人確認につなげる |
| 管理情報 | 資料所在、担当部署、確認者、確認日、未確認事項 | 追加資料依頼とレビュー状況を管理する |
契約一覧の基本項目については、既存記事「新リース基準対応、契約一覧はどの項目で作るべきか」でも整理しています。本記事では、その一覧を実際のリース判定メモにどうつなげるかを中心に解説します。
リース判定メモに残すべき項目
リース判定メモは、後から確認したときに「なぜこの結論にしたのか」が分かる程度に残すことが重要です。
すべての契約について長文のメモを残す必要はありませんが、判断が分かれやすい契約については、次の項目を残すと説明しやすくなります。
| 判断テーマ | 残す内容 |
|---|---|
| リースを含むか | 特定された資産、使用を指図する権利、使用から得られる経済的利益を確認した内容 |
| リース期間 | 解約不能期間、延長オプション、解約オプション、更新見込み、重要な経済的インセンティブ |
| 短期リース候補 | リース開始日における借手のリース期間が12か月以内か、購入オプションを含まないか |
| 少額リース候補 | 300万円基準の対象になり得るか、同種契約の多寡、事業上の重要性 |
| リース部分と非リース部分 | 保守、サービス、管理費などが含まれる場合の内訳確認状況 |
| 未確定事項 | 契約書未入手、請求書内訳未確認、監査法人・親会社へ確認予定の事項 |
リース判定メモは、会計上の最終結論を一度で確定するためのものではありません。初期調査、影響度診断、会計方針作成、監査法人確認の過程で更新される資料として扱う方が現実的です。
300万円基準は、一覧から除外する理由ではない
少額リースの300万円基準に該当しそうな契約でも、最初から契約一覧から外すのは避けた方が安全です。
理由は、後から次のような確認が必要になることがあるためです。
- 契約単位をどう見たか
- 月額だけでなく、契約期間全体でどの程度の金額になるか
- 維持管理費用相当額やサービス部分をどう見たか
- 同種契約が多数ある場合に重要性がないと言えるか
- 親会社や監査法人に説明する必要があるか
300万円基準そのものの考え方は、既存記事「日本独自の少額リース300万円基準とは」で整理しています。
実務上は、契約一覧上で「少額リース候補」として残し、リース判定メモに確認した前提を残す運用が扱いやすいです。
短期リース・少額リースは別項目で管理する
短期リースと少額リースは、どちらも実務負担を下げる取扱いにつながることがありますが、判定軸は異なります。
短期リースは主に期間を見る論点です。少額リースは金額や重要性を見る論点です。したがって、契約一覧では「短期リース候補」と「少額リース候補」を別項目で管理する方が分かりやすくなります。
短期リース・少額リースの違いについては、既存記事「新リース基準の短期リース・少額リース」も参考になります。
保守料・サービス料込みの契約は、内訳確認状況を残す
複合機、車両、店舗設備、IT機器などでは、契約の中にリース部分と保守・サービス部分が含まれていることがあります。
この場合、契約書だけでなく、見積書、請求書、明細、社内管理資料を確認しないと、どこまでをリース料として扱うか判断しにくいことがあります。
リース判定メモには、少なくとも次のような内容を残します。
- 契約書上、保守料・サービス料の内訳があるか
- 請求書や見積書で内訳を確認できるか
- 内訳が不明な場合、相手先や担当部署に確認したか
- 会計方針上、どのように扱う予定か
この整理は、後の会計方針書にもつながります。会計方針書に入れるべき項目は、既存記事「新リース基準の会計方針書には何を書くべきか」で整理しています。
監査法人・親会社に説明しやすいリース判定メモの作り方
リース判定メモは、社内用メモとしてだけでなく、監査法人や親会社への説明資料の土台にもなります。
説明しやすくするには、次のような列を用意しておくと便利です。
- 判断日
- 判断者
- 確認資料
- 暫定判断
- 判断理由
- 未確認事項
- 親会社・監査法人への確認要否
- 確認結果
重要なのは、最初から完璧な判断を入れることではありません。暫定判断と未確認事項を分けておくことです。
例えば、「少額リース候補。ただし保守料内訳未確認」「短期リース候補。ただし自動更新条項について監査法人確認予定」のように残しておけば、後続作業で何を確認すべきかが明確になります。
Excel台帳で始める場合の注意点
契約件数が少ない場合や、まず影響度を把握する段階では、Excel台帳から始めることも現実的です。
ただし、Excelで進める場合でも、次の点には注意が必要です。
- 列名と判定ルールを途中で変えすぎない
- 判断者、判断日、確認資料を残す
- 契約変更や更新時の更新ルールを決める
- 親会社・監査法人への提出用に、説明しやすい形に整える
- 契約件数が多い場合は、システム導入要否も検討する
システム導入や支援サービスを選ぶ前に整理すべき事項は、既存記事「新リース基準対応でシステム・支援サービスを選ぶ前に整理すべきこと」も参考になります。
影響額試算へ進む前に確認すること
契約一覧とリース判定メモがある程度整うと、影響額の概算に進みやすくなります。
ただし、影響額試算に進む前に、次の点を確認しておくと手戻りを減らせます。
- 主要契約の契約書が入手できているか
- リース期間の前提が暫定でも整理されているか
- 短期リース・少額リース候補が分かれているか
- 保守料やサービス料の内訳確認状況が分かるか
- 監査法人・親会社に確認すべき論点が一覧化されているか
影響額をまず概算すべき理由は、既存記事「新リース基準、自社への影響額をまず概算すべき理由」で整理しています。
よくある失敗
契約一覧とリース判定メモを作るときに、次のような失敗が起きやすくなります。
- 経理部門が把握している契約だけで一覧を作ってしまう
- 少額に見える契約を最初から一覧に入れない
- 月額だけを見て300万円基準を判断してしまう
- 契約書の保守料・サービス料の内訳を確認しない
- 判断理由を残さず、結論だけを入力する
- 親会社・監査法人への確認事項を別管理にしてしまう
特に、判断理由を残さないまま作業を進めると、後から監査法人や親会社に説明するときに、同じ契約を再確認することになりやすいです。
よくある質問
Q1. 300万円以下に見える契約は一覧から外してよいですか?
最初から外すのは避けた方が安全です。少額リース候補として一覧に残し、どの前提で判断したかをリース判定メモに残します。
Q2. 契約一覧と会計方針書はどちらを先に作るべきですか?
通常は、契約一覧を先に作り、主要論点を把握したうえで会計方針書又は会計方針メモに落とし込む流れが進めやすいです。ただし、会計方針のたたき台を先に作り、契約一覧を作りながら更新する方法もあります。
Q3. リース判定メモは全契約について必要ですか?
すべての契約について詳細な文章を残す必要はありません。金額が大きい契約、判断が分かれる契約、親会社・監査法人確認が必要な契約を中心に、理由と未確認事項を残すことが重要です。
Q4. Excelで管理しても問題ありませんか?
契約件数が少なく、更新や変更が少ない場合は、Excelから始めることもあります。ただし、複数拠点、複数会社、多数契約、頻繁な契約変更がある場合は、システム導入や既存システム改修の要否も検討します。
Q5. 初回相談で個別契約の最終判定までできますか?
初回相談では、契約件数、資料整備状況、主な契約種類、親会社・監査法人から求められている事項を確認し、次に必要な作業範囲を整理します。個別契約の最終判定や影響額の確定は、契約書等の資料確認後の別途対応になります。
九段パートナーズ会計事務所の新リース会計基準対応支援
九段パートナーズ会計事務所では、上場会社、上場子会社、中堅企業、会計監査人設置会社向けに、新リース会計基準対応の初期整理を支援しています。
契約一覧の作成、短期リース・少額リース候補の整理、300万円基準の確認、影響額の概算、会計方針メモ、監査法人・親会社への説明準備など、社内で進める作業のうち判断が必要な部分を整理します。
根拠資料
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」
- 本記事では、契約一覧・リース判定メモの作り方は実務上の整理として記載しています。個別契約の会計処理、税務処理、監査上の判断は、契約書、会計方針、監査法人又は専門家への確認により判断してください。

