新リース会計基準のセール・アンド・リースバック|売却か金融取引か
本記事では、企業が行うセール・アンド・リースバックについて、新リース会計基準に基づく会計処理と実務上の確認事項を解説します。
セール・アンド・リースバックは、資産を譲渡した後に、売手がその資産を買手から借りて使い続ける取引です。
形式上は「売買契約」と「リース契約」が締結されますが、契約書に売買と書かれていることや、法的所有権が移転したことだけで、会計上の売却になるとは限りません。
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(以下「リース会計基準」)及び企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」(以下「適用指針第33号」)では、セール・アンド・リースバックの判断と会計処理が定められています。この記事では、売手である借手の立場から、売却と金融取引を分ける確認順序と、判断を記録するために必要な資料を整理します。
結論:判定4ステップと、その後の測定調整を分ける
まず、次の4ステップで対象範囲と会計処理を判定します。
- 対象範囲:第53項のセール・アンド・リースバックに該当し、同項の除外取引に当たらないか。
- 譲渡前の支配:売手が譲渡前に資産を支配していたか(第54項)。
- 売却該当性:買戻し条項も含め、他の会計基準等に従って損益を認識する売却に該当するか(第55項(1))。
- 金融取引該当性:リースバックにより、売手が経済的利益のほとんどすべてを享受し、かつ、使用に伴うコストのほとんどすべてを負担するか(第55項(2))。
売却と借手のリースとして処理する場合は、続いて譲渡対価とリース料が市場条件から明らかに外れていないかを確認し、必要な測定調整を行います(第56項・第57項)。この調整は、売却か金融取引かを決める判定とは区別します。なお、第53項の除外取引にも第57項を適用する定めがあります(第58項)。
契約書を別々に読むだけでなく、売買とリースバックを一体の取引として検討することが重要です。
セール・アンド・リースバックとは
適用指針第33号第53項は、売手である借手が資産を買手である貸手に譲渡し、その資産を当該貸手からリースする取引をセール・アンド・リースバック取引としています。
ただし、次の資産譲渡は同項の対象から除かれます。
- 収益認識会計基準に従い、一定の期間にわたり履行義務を充足することによって行われる譲渡(第53項(1))。
- 工事契約に企業会計基準適用指針第30号第95項を適用し、履行義務を完全に充足した時点で収益を認識することを選択する場合の譲渡(第53項(2))。
この整理の背景には、譲渡する資産と借り戻す資産の同一性があります。上記の工事契約等では、譲渡する仕掛中の資産と、リースバックで使用する完成資産が同一ではないという考え方によります(BC85・BC87)。
また、売手が譲渡前に原資産の支配を獲得していない取引は、第54項によりセール・アンド・リースバックに該当せず、リースとして処理します。一時的に法的所有権を取得しただけで支配を獲得していない場合もあるため、売手がいつ、どのような権利を持っていたかを確認します。
判定結果は3つ、基本的な会計処理は2つ
| 確認結果 | 売手である借手の基本的な会計処理 |
|---|---|
| 資産の譲渡が、他の会計基準等に従って売却に該当しない | 資産の譲渡とリースバックを一体の金融取引として処理 |
| 資産の譲渡は売却に該当するが、リースバックにより経済的利益のほとんどすべてを売手が享受し、かつ、使用に伴うコストのほとんどすべてを負担する | 資産の譲渡とリースバックを一体の金融取引として処理 |
| 資産の譲渡が売却に該当し、上記の実質的なフルペイアウトにも該当しない | 資産の譲渡について損益を認識し、リースバックは借手のリースとして処理 |
この区分は、適用指針第33号第55項及び第56項に基づきます。金融取引となる場合、受け取った金額を単純に売上高又は売却損益として処理するのではなく、資産を引き続き認識し、受領額を金融負債として処理します。売却と借手のリースとして処理する場合は、他の会計基準等に従う譲渡損益の認識と、使用権資産・リース負債の計上を行います。
旧基準から何が変わったか
旧基準である企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」第49項では、リースバックがファイナンス・リースに該当する場合、売却損益を原則として繰り延べ、リース資産の減価償却に合わせて損益に反映する取扱いでした。ただし、合理的な見積市場価額が帳簿価額を下回ることによる売却損失であることが明らかな場合は、繰り延べず売却時の損失とする例外があります。
新基準適用後に締結する取引では、この枠組みが変わり、①資産の譲渡とリースバックを一体の金融取引として処理するか、②譲渡損益を認識し、リースバックを借手のリースとして処理するか、の判定が起点となります。
| 論点 | 旧基準の取扱い | 新基準の取扱い |
|---|---|---|
| 売却損益の扱い | ファイナンス・リースに該当する場合、売却損益を原則として繰り延べる(第49項の損失処理の例外等あり) | 金融取引か、譲渡損益を認識してリースバックを借手のリースとして処理するかを判定する |
| 判断の起点 | リースバックのリース分類を確認する | 資産の譲渡が売却に該当するか、リースバック後にフルペイアウトとなるかを順に確認する |
| 実務資料 | 繰延損益と減価償却への加減処理を計算する | 契約事実、支配移転、買戻し、経済的利益・コスト、時価・市場レートを判断メモに残す |
売却判定:買手へ支配が移転しているか
資産の譲渡が売却に該当するかを判断する際は、取引対象と契約関係に応じて、収益認識会計基準などの適用される会計基準を確認します。
顧客との契約から生じる資産の譲渡に収益認識会計基準を適用する場合、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」)第35項から第40項に従い、買手が資産に対する支配を獲得したかを検討します。第37項の支配には、資産の使用を指図して残りの便益のほとんどすべてを享受する能力に加え、他の企業がその資産を使用して便益を得ることを妨げる能力も含まれます。
支配の移転を検討する際の指標として、企業会計基準第29号第40項(1)から(5)では、次のものが挙げられています。
- 売手が対価を受け取る現在の権利を有しているか
- 買手が法的所有権を有しているか
- 物理的占有が移転しているか
- 所有に伴う重大なリスクと経済価値が買手へ移っているか
- 買手による検収が完了しているか
これらは単独で結論を決めるチェックボックスではありません。契約条項、実際の取引フロー、資産の保管・利用状況、第三者への処分可能性などを総合して判断します。
なお、固定資産の譲渡など、顧客との契約から生じる収益ではない取引は、収益認識会計基準の適用範囲に含まれない場合があります。その場合は、対象資産と取引形態に応じて、他の会計基準や実務指針を確認する必要があります。
売却判定:買戻し条項を確認する
売買契約、リース契約、覚書、サイドレターに買戻し条項がある場合は、売却該当性の検討に含めます。次の表は、企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「収益認識適用指針」)の対象となる商品・製品の買戻契約について、主な分岐を整理したものです。固定資産等の譲渡では、先に適用する会計基準等を確認してください。
先渡取引・コール・オプション
先渡取引は売手が買い戻す義務、コール・オプションは売手が買い戻す権利を持つ契約です。第69項では、これらがある場合、買手は商品・製品の支配を獲得していないとします。
| 価格の関係 | 取扱い |
|---|---|
| 買戻価格が当初の販売価格より低い | 通常はリース。ただし、売手によるリースバックが含まれる契約は金融取引。 |
| 買戻価格が当初の販売価格以上 | 金融取引。 |
プット・オプション
プット・オプションは、買手の要求により売手が買い戻す義務を負う契約です。第72項・第73項では、買戻価格と予想時価に加え、買手が権利を行使する重要な経済的インセンティブ(行使する経済的な動機)も検討します。
| 主な条件 | 取扱い |
|---|---|
| 買戻価格が販売価格より低く、行使の重要な経済的インセンティブがある | 通常はリース。ただし、売手によるリースバックが含まれる契約は金融取引(第72項)。 |
| 買戻価格が販売価格より低く、行使の重要な経済的インセンティブがない | 返品権付きの販売(第72項)。 |
| 買戻価格が販売価格以上で、買戻日時点の予想時価より高い | 金融取引(第73項)。 |
| 買戻価格が販売価格以上かつ予想時価以下で、行使の重要な経済的インセンティブがない | 返品権付きの販売(第73項)。 |
いずれの価格比較でも、金利相当分の影響を考慮します。プットの行使インセンティブは、予想時価との関係や権利の存続期間等を含めて判断します。表の条件にそのまま当てはまらない契約は、個別に検討してください。
金融取引の場合は、原資産を認識し続け、受領した対価を金融負債とするのが基本です(第70項)。オプションが未行使のまま消滅した場合の取扱いは、第71項・第74項も確認します。
金融取引の判定:リースバックが実質的なフルペイアウトか
資産の譲渡が売却に該当しても、リースバックにより、売手である借手が資産から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受し、使用に伴うコストのほとんどすべてを負担する場合は、適用指針第33号第55項(2)により金融取引となります。
新基準の借手は、通常のリースをファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類して処理を分けません。ただし、セール・アンド・リースバックでは、第55項(2)の金融取引判定が必要です。「フルペイアウト」は、この判定における経済的利益とコストの負担を説明する用語として用いています(BC93・BC94)。
確認項目には、例えば次のものがあります。
- リース期間と資産の経済的耐用年数
- リース料総額の現在価値と資産の時価
- 残価保証、維持管理費、陳腐化リスクの負担
- 契約終了時の返還、更新、購入オプション
- 中途解約の可否と違約金
なお、適用指針第33号第55項(2)の判定について、具体的な数値基準が直接定められているわけではありません。結論の背景BC94では、第62項の貸手におけるファイナンス・リースの判定基準(現在価値基準・経済的耐用年数基準)を用いる場合、売手である借手のリース期間とリース料をもとに判定することが考えられるとされています。90%基準や75%基準だけを機械的に当てはめず、取引全体の実態を確認する必要があります。
測定調整:譲渡対価とリース料は市場条件か
売却と借手のリースとして処理する場合、譲渡価格とリース料の相互依存性にも注意します。例えば、高い譲渡価格と高いリース料を組み合わせると、譲渡損益だけが大きく見えることがあります。
適用指針第33号第57項は、市場条件から明らかに外れる場合について、次のように定めています。
| 状況 | 譲渡損益の計算 | 差額の処理 |
|---|---|---|
| 譲渡対価が時価を明らかに下回る(第57項(1)) | 時価を用いて譲渡損益を計算する。 | 時価との差額を使用権資産の取得価額に含める。 |
| リース料が市場レートを明らかに下回る(第57項(2)) | 市場レートでのリース料との差額を譲渡対価に加えて、譲渡損益を計算する。 | 当該差額を使用権資産の取得価額に含める。 |
| 譲渡対価が時価を明らかに上回る(第57項(3)) | 時価を用いて譲渡損益を計算する。 | 時価との差額を金融取引として処理する。 |
| リース料が市場レートを明らかに上回る(第57項(4)) | 市場レートでのリース料との差額を譲渡対価から差し引き、譲渡損益を計算する。 | 当該差額を金融取引として処理する。 |
判定の基礎には、資産の時価と市場レートでのリース料のうち、容易に算定できる方を用います。表の上2行は譲渡対価を増額する場合、下2行は減額する場合の整理です。同じ市場条件との差を、譲渡価格とリース料の両面から重複して調整しないようにします。
譲渡価格の査定資料、第三者見積り、同種資産の取引事例、リース料の算定根拠を保存し、採用した測定方法を説明できるようにします。第57項は、セール・アンド・リースバックに該当しない第53項(1)・(2)の取引にも適用されます(第58項)。
設例:金融取引と売却処理の違い
以下は、契約条件が異なる2つの架空例です。同じ取引について会計処理を自由に選べることを示すものではありません。金額の単位は百万円とし、各年の金額は端数処理前の数値で計算した後、小数第2位まで表示します。
両ケースの共通前提
- 期首に取引を実行し、その日から5年間、機械装置を使用する。
- 取引直前の機械装置の帳簿価額は100、時価及び受領する譲渡対価は120。
- 原資産の残存耐用年数は10年、残存価額はゼロ、減価償却方法は定額法とする。
- 各年末に20を支払う。消費税、法人税・税効果、付随費用、前払・未払リース料、リース・インセンティブ、資産除去債務、減損及び契約変更は考慮しない。
ケース1:満了時の買戻し義務があり、金融取引と判断される場合
売手は5年目の年末支払後に、機械装置を約42.64で必ず買い戻す契約を締結しています。取引全体は機械装置を担保とした資金調達であり、他の会計基準等に照らして損益を認識する売却に該当しないと判断されたケースを想定します(適用指針第33号第55項(1))。
受領額120と、年末支払20を5回及び満了時の買戻支払額の現在価値が一致する実効金利を年5%とします。買戻支払額は端数処理前で42.6411625であり、年末支払だけでは解消しない金融負債を、この買戻支払により決済します。
① 取引実行時
| 借方(科目・金額) | 貸方(科目・金額) |
|---|---|
| 現金預金 120.00 | 金融負債 120.00 |
機械装置100の認識を継続し、譲渡益20は計上しません。
② 1年目の年末支払
| 借方(科目・金額) | 貸方(科目・金額) |
|---|---|
| 支払利息 6.00 金融負債 14.00 |
現金預金 20.00 |
利息は120×5%=6、元本返済は20−6=14となり、1年目末の金融負債は106です。
③ 1年目の減価償却
| 借方(科目・金額) | 貸方(科目・金額) |
|---|---|
| 減価償却費 10.00 | 減価償却累計額 10.00 |
原資産を引き続き保有するため、従来の残存耐用年数10年で償却を継続します(100÷10年=10)。5年目末には、通常の年末支払と償却の後、残る金融負債約42.64を買戻支払で消し込みます。機械装置を新たに取得したものとして二重計上はしません。
ケース2:売却を認識し、5年後に原資産を返還する場合
買戻し義務・買戻し権、購入・更新オプション及び残価保証はなく、5年後に機械装置を買手へ返還します。返還後の利用・処分と残価変動のリスクは買手が引き受けます。譲渡は他の会計基準等に従って売却に該当し、リースバックも第55項(2)の要件を満たさないと判断されたケースを想定します。譲渡対価は時価であり、リース料も市場条件にあるため、第57項の調整は不要とします。
リース負債の割引率は、貸手の計算利子率を知り得ないため、借手の追加借入利子率である年5%とします(第37項)。年末払20を5年間支払う現在価値は約86.59です。付随費用等がないため、使用権資産も同額とします。
使用権資産は、所有権が借手に移転すると認められるリースではないため、リース期間5年、残存価額ゼロ、定額法で償却する前提とします(リース会計基準第38項)。
① 譲渡時
| 借方(科目・金額) | 貸方(科目・金額) |
|---|---|
| 現金預金 120.00 | 機械装置(帳簿価額) 100.00 固定資産売却益 20.00 |
機械装置は、取得原価と減価償却累計額の消去を帳簿価額100でまとめて表示しています。第56項に従って、譲渡益20を全額認識します。
② リース開始時
| 借方(科目・金額) | 貸方(科目・金額) |
|---|---|
| 使用権資産 86.59 | リース負債 86.59 |
③ 1年目の年末支払
| 借方(科目・金額) | 貸方(科目・金額) |
|---|---|
| 支払利息 4.33 リース負債 15.67 |
現金預金 20.00 |
④ 1年目の使用権資産の償却
| 借方(科目・金額) | 貸方(科目・金額) |
|---|---|
| 減価償却費(使用権資産) 17.32 | 減価償却累計額(使用権資産) 17.32 |
5年目末の最終支払によりリース負債が解消し、使用権資産の償却も終了します。原資産は買手へ返還し、ケース1のような買戻支払はありません。
1年目の損益への影響
| 項目(百万円) | ケース1:金融取引 | ケース2:売却+リース |
|---|---|---|
| 譲渡益 | 0.00 | +20.00 |
| 支払利息 | −6.00 | −4.33 |
| 減価償却費 | −10.00(原資産) | −17.32(使用権資産) |
| 利息・償却による費用合計 | −16.00 | −21.65 |
| 譲渡益を含む損益影響合計 | −16.00 | −1.65 |
プラスは利益の増加、マイナスは利益の減少を示します。ケース2の譲渡益は取引時の損益であり、翌年以降も繰り返し発生するものではありません。両ケースは満了時の支払と資産の帰属が異なるため、この表だけで取引の有利・不利を比較することはできません。実際の仕訳科目、金額及び判定は契約条件と適用基準に基づき確認します。
実務で最初に集める資料
| 資料 | 主な確認目的 |
|---|---|
| 資産の売買契約書 | 譲渡対象、譲渡時点、対価、検収、危険負担、所有権移転を確認 |
| リース契約書 | リース期間、リース料、解約条件、更新、購入オプション、残価保証を確認 |
| 覚書・サイドレター | 買戻し、最低利用期間、価格補償など、本文外の合意を確認 |
| 取引フロー・資産移動記録 | 支配、物理的占有、検収、第三者への処分可能性を確認 |
| 時価・市場レートの根拠 | 譲渡対価とリース料が市場条件から明らかに外れていないか確認 |
| 社内稟議・事業計画 | 取引目的、継続利用の前提、オプション行使見込みを確認 |
| 親会社・監査法人への説明資料 | 日本基準、IFRS、連結報告の差異と未解決事項を整理 |
契約一覧と判断根拠の残し方は、新リース基準の契約一覧とリース判定メモの作り方も参考になります。
適用時期と経過措置
リース会計基準第58項により、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用します。2025年4月1日以後開始する年度の期首から早期適用することもできます。
適用初年度は会計方針の変更として原則遡及適用しますが、累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減する方法も選択できます(適用指針第33号第118項)。
適用初年度の期首より前に締結した取引
既存のセール・アンド・リースバックについては、第126項に固有の取扱いがあります。売手である借手は、次の4点を確認します。
| 項目 | 経過措置 |
|---|---|
| 過去の売却該当性(第126項(1)) | 他の会計基準等に基づく資産譲渡の売却該当性の判断を見直さない。 |
| 市場条件との差(同(2)) | 第57項の時価・市場レートに関する調整を適用しない。 |
| リースバック(同(3)) | 適用初年度の期首に存在する他のリースと同様に処理する。 |
| 旧基準の繰延損益(同(4)) | 旧基準で繰り延べ、減価償却に合わせて損益に反映していた処理を継続する。新基準適用後は使用権資産の減価償却に合わせて損益に反映する。 |
したがって、新規取引の売却損益の認識方法を、そのまま過去の取引に当てはめるものではありません。旧基準で繰り延べた損益を、移行時に一括して利益・損失に振り替える説明は避ける必要があります。
IFRSを連結財務諸表に適用する企業又はその連結子会社が、第134項によりIFRSの経過措置等を個別財務諸表の移行に用いる場合でも、第126項の取扱いは適用します(第134項ただし書き)。
契約締結日、旧基準での処理、残存期間、繰延損益の残高、期首の使用権資産・負債を一覧にして移行方法を整理します。詳細は、新リース基準の会計方針書に何を書くべきかも参考になります。
買手(貸手)側の取扱い
セール・アンド・リースバック取引におけるリースバックがファイナンス・リースに該当するかの貸手による判定は、適用指針第33号第59項から第69項によります。
ただし、この判定において、経済的耐用年数は、リースバック時における原資産の性能・規格・陳腐化の状況等を考慮して見積った経済的使用可能予測期間を用います。また、当該原資産の借手の現金購入価額には、借手の実際売却価額を用います。これは適用指針第33号第87項の読み替えです。
ファイナンス・リースに該当する場合の会計処理は第70項から第81項までと同様とし、オペレーティング・リースに該当する場合は第82項と同様とします(適用指針第33号第88項)。この読み替えルールは見落とされやすいため、貸手側の判定資料にも明示することが重要です。
IFRS 16対応済みでも、日本基準の再確認が必要
日本基準では、売却に該当し、かつ、第55項の金融取引に該当しない場合、他の会計基準等に従って譲渡損益を認識します。第57項の調整が不要である設例のケース2では、譲渡益20の全額を認識します(第56項・BC93)。
これに対し、IFRS 16では、売却に該当する場合でも、買手に移転した権利に対応する利得・損失を認識するため、売手がリースバックで保持する権利部分との配分が必要です。この相違は、適用指針第33号BC91・BC93でも説明されています。
また、日本基準には第55項(2)のフルペイアウトによる金融取引判定があります。親会社のIFRS計算結果をそのまま転記するのではなく、売却該当性、損益の認識額、市場条件調整、経過措置を分けて確認します。詳しくは、IFRS16を適用済みの親会社を持つ子会社が見落としがちな新リース基準の論点をご覧ください。
注記・開示上の留意点
適用指針第33号第101項(1)は、セール・アンド・リースバックについて次の事項を注記対象としています。
- 売却損益を損益計算書で区分表示していない場合、その損益を含む科目と金額(①)。
- 第55項による金融取引の処理を行った資産があること、その資産の科目と金額(②)。
- 第56項による売却とリースの処理を行った取引の主要な条件(③)。
開示目的を達成するため、これら以外の情報が必要になる場合もあります。例えば、取引を行う理由や取引の一般性(通常どのように行われている取引か)が挙げられています(第94項・第95項(4))。
重要性に乏しい注記事項は省略できる取扱いもあります(リース会計基準第55項ただし書き)。取引の重要性と利用者が理解するために必要な情報を踏まえ、表示と注記を合わせて確認します。
税務上の取扱いとの差異
会計上の売却・金融取引の判定と、税務上の判定は必ずしも一致しません。会計上の結論だけで法人税や消費税の処理を決めないことが重要です。
法人税:実質的に金銭の貸借に当たるか
法人税法第64条の2第2項は、資産の譲渡と賃貸を一連の取引として見たとき、実質的な金銭の貸借であれば、売買ではなく、買手から売手への貸付けとして扱う旨を定めています。
法人税基本通達12の5-2-1では、当事者の意図や資産の内容等から、資産を担保とする金融取引を目的としているかにより判定します。会計上は売却、税務上は金銭の貸借となる場合は、申告調整と税効果会計の検討が必要になります。国税庁「No.5702 リース取引についての取扱いの概要」も参照してください。
消費税:元本と利息、当事者の立場を分ける
消費税基本通達5-1-9は、リース取引が資産の譲渡・貸付け・金銭の貸付けのいずれに当たるかを、原則として所得税・法人税の取扱いに従って判定します。同通達(2)では、法人税法第64条の2第2項による金銭貸借の場合、譲渡代金の支払時に貸付けがあったものとします。
この税務上の金融取引に該当する場合の整理は、次のとおりです。
| 区分 | 売手である借手 | 買手である貸手 |
|---|---|---|
| 当初の資金受渡し | 借入元本の受領。資産売却による課税売上としない。 | 貸付元本の支出。資産購入による課税仕入れとしない。 |
| 元本の返済 | 借入元本の返済として課税対象外。 | 貸付元本の回収として課税対象外。 |
| 利息 | 支払利息は課税仕入れに当たらない。 | 受取利息は非課税売上(消費税基本通達6-3-1(1))。 |
元本が消費税の課税対象外であることと、貸付利息が非課税とされることは区別します。また、通常のファイナンス・リースの利子相当額について契約上の明示を条件とする取扱い(同通達6-3-1(17))と、ここで扱う金銭貸借の利息を混同しないようにします。
金銭の貸借に該当しない取引では、資産の種類や税務上のリース取引該当性に応じ、譲渡・貸付けそれぞれの消費税の扱いを検討します。
固定資産税:納税義務者と費用負担者を区別する
地方税法上の納税義務者と、契約で固定資産税相当額を負担する者は区別して確認します。契約上の費用負担だけで納税義務者が決まるわけではありません。対象資産の種類、所有関係、法令上の取扱いを確認してください。
税務の結論は、個別の契約条件・資産の種類・取引実態によって異なるため、具体的な取引ごとに検討が必要です。
よくある質問
Q1. 法的所有権が買手へ移れば、売却として処理できますか。
法的所有権の移転は重要な指標ですが、それだけでは決まりません。買手が資産の使用を指図し、残りの便益のほとんどすべてを享受できるか、買戻し条項がないか、リースバック後も売手が経済的利益とコストのほとんどすべてを負担していないかを確認します。
Q2. 90%基準又は75%基準に該当しなければ、必ず売却になりますか。
必ず売却になるわけではありません。まず、資産の譲渡自体が売却に該当するかを確認する必要があります。また、適用指針第33号第55項(2)の判断は、数値基準だけでなく、資産から生じる経済的利益とコストを実質的に誰が負担するかという取引実態に基づきます。
Q3. 税務上の売買・賃貸借の判定も同じですか。
会計上の判定と税務上の取扱いは、必ずしも一致しません。法人税、消費税、固定資産税は、対象資産と契約条件に応じた個別検討が必要です。詳しくは本記事の「税務上の取扱いとの差異」を確認してください。
Q4. 監査法人への相談前に、何を準備すればよいですか。
売買契約書、リース契約書、覚書、取引フロー、買戻し条件、時価とリース料の算定根拠をそろえ、判定フローに沿った会計判断メモを作成します。未解決事項を明示して相談すると、論点が整理しやすくなります。
まとめ
セール・アンド・リースバックは、契約書の名称や法的所有権の移転だけで売却と判断できる取引ではありません。
セール・アンド・リースバックの対象範囲、譲渡前後の支配、買戻し条項、実質的なフルペイアウト、時価・市場レートを順に確認し、資産の譲渡とリースバックを一体として評価することが重要です。
具体的な結論は、対象資産、契約書、取引フロー、価格条件、適用する会計基準によって変わります。会計判断メモには、結論だけでなく、根拠、使用した資料、未解決事項を残してください。
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参考資料
- 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(第33項から第38項、第54項・第55項、第58項)
- 企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」(第37項、第53項から第69項、第87項・第88項、第94項・第95項、第101項、第118項・第126項・第134項、BC82からBC97)
- 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(第35項から第40項)
- 企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(第69項から第74項、第95項)
- 旧企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(第48項から第50項)
- 国税庁「法人税基本通達12の5-2-1」(法人税法第64条の2第2項の判定)
- 国税庁「消費税基本通達5-1-9」(本文・(2))
- 国税庁「消費税基本通達6-3-1」((1)・(17))
- 多摩市「固定資産税(償却資産)に関する法令」(地方税法第343条、第359条等。資産別の確認が必要)
- 国税庁「No.5702 リース取引についての取扱いの概要」
- 国税庁「No.6163 リース取引についての消費税の取扱いの概要」
確認日:2026年9月7日
本記事は一般的な会計上の整理を目的としています。個別取引の会計・税務上の結論は、契約条件、取引実態、適用する会計基準及び監査上の判断を踏まえて個別に検討してください。


