新リース会計基準のセール・アンド・リースバック|売却か金融取引か

本記事は、企業会計上のセール・アンド・リースバック取引(法人の資産譲渡とリースバック)を扱います。個人の住宅リースバックについては扱っていません。

セール・アンド・リースバックは、資産を譲渡した後に、売手がその資産を買手から借りて使い続ける取引です。

形式上は「売買契約」と「リース契約」が締結されますが、契約書に売買と書かれていることや、法的所有権が移転したことだけで、会計上の売却になるとは限りません。

企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(以下「リース会計基準」)及び企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」(以下「適用指針第33号」)では、セール・アンド・リースバックの判断と会計処理が定められています。この記事では、売手である借手の立場から、売却と金融取引を分ける確認順序と、判断を記録するために必要な資料を整理します。

結論:売却か金融取引かは、5段階で確認する

セール・アンド・リースバックの検討では、最初から仕訳を作るのではなく、次の順序で契約事実を確認します。

  1. セール・アンド・リースバックの対象となる取引か
  2. 売手が譲渡前に資産を支配していたか
  3. 資産の譲渡が、収益認識会計基準などに照らして売却に該当するか
  4. リースバック後も、売手が経済的利益とコストのほとんどすべてを引き続き負担するか
  5. 譲渡対価とリース料が、時価と市場レートから明らかに外れていないか

重要なのは、資産の譲渡とリースバックを別々の契約書として見るだけでなく、相互に関連する一体の取引として実態を確認することです。

セール・アンド・リースバックとは

適用指針第33号第53項では、セール・アンド・リースバック取引を、売手である借手が資産を買手である貸手に譲渡し、その資産を買手である貸手からリースする取引としています。

ただし、資産を譲渡して借り戻す形であれば、すべてがこの取扱いの対象になるわけではありません。

  • 一定の期間にわたり履行義務が充足される資産の譲渡など、第53項(1)で除外される取引
  • 工事契約について、収益認識に関する会計基準の適用指針第95項の代替的取扱いを適用し、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することを選択する場合
  • 売手が資産を移転する前に、その資産に対する支配を獲得していない取引

セール・アンド・リースバック取引では、譲渡された資産とリースされた資産が同一であることが重要な要素と考えられます。そのため、売却した資産とリースバックした資産が同一でない場合には、この取扱いの対象とならない可能性があります。建設請負工事のように資産の譲渡が一定の期間にわたり充足される履行義務の充足によって行われる場合、譲渡された資産は仕掛中であり、リースバックにより支配を獲得する使用権資産は完成した資産に関するものであるため、両者は別個のものとなる可能性があります。

後者は適用指針第33号第54項により、セール・アンド・リースバックとしてではなく、リースとして会計処理します。売買契約の存在だけで判定せず、売手がいつ、どのような権利を取得し、資産の使用を指図して便益を享受できたかを確認する必要があります。

会計処理は大きく3つに分かれる

確認結果 売手である借手の基本的な会計処理
資産の譲渡が、他の会計基準等に従って売却に該当しない 資産の譲渡とリースバックを一体の金融取引として処理
資産の譲渡は売却に該当するが、リースバックにより経済的利益とコストのほとんどすべてを売手が引き続き負担する 資産の譲渡とリースバックを一体の金融取引として処理
資産の譲渡が売却に該当し、上記の実質的なフルペイアウトにも該当しない 資産の譲渡について損益を認識し、リースバックは借手のリースとして処理

この区分は、適用指針第33号第55項及び第56項に基づきます。金融取引となる場合、受け取った金額を単純に売上高又は売却損益として処理するのではなく、資産を引き続き認識し、受領額に対応する金融負債を認識する検討が必要です。

旧基準から何が変わったか

旧基準である企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」では、リースバックがファイナンス・リースに該当する場合、資産の譲渡に係る売却損益を長期前払費用又は長期前受収益として繰り延べ、リース資産の減価償却費の割合に応じて減価償却費に加減する処理が求められていました。

新基準では、この繰延処理の枠組みが変わり、①資産の譲渡とリースバックを一体の金融取引として処理するか、②譲渡損益を認識し、リースバックを借手のリースとして処理するか、の判定が起点となります。

論点 旧基準の取扱い 新基準の取扱い
売却損益の扱い ファイナンス・リースに該当する場合、売却損益を繰り延べる 金融取引か、譲渡損益を認識してリースバックを借手のリースとして処理するかを判定する
判断の起点 リースバックのリース分類を確認する 資産の譲渡が売却に該当するか、リースバック後にフルペイアウトとなるかを順に確認する
実務資料 繰延損益と減価償却への加減処理を計算する 契約事実、支配移転、買戻し、経済的利益・コスト、時価・市場レートを判断メモに残す

判定ポイント1:買手へ支配が移転しているか

資産の譲渡が売却に該当するかを判断する際は、取引対象と契約関係に応じて、収益認識会計基準などの適用される会計基準を確認します。

顧客との契約から生じる資産の譲渡に収益認識会計基準を適用する場合、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」)第35項から第40項に従い、買手が資産に対する支配を獲得したかを検討します。支配とは、その資産の使用を指図し、残りの便益のほとんどすべてを享受する能力をいいます。

支配の移転を検討する際の指標として、企業会計基準第29号第40項(1)から(5)では、次のものが挙げられています。

  • 売手が対価を受け取る現在の権利を有しているか
  • 買手が法的所有権を有しているか
  • 物理的占有が移転しているか
  • 所有に伴う重大なリスクと経済価値が買手へ移っているか
  • 買手による検収が完了しているか

これらは単独で結論を決めるチェックボックスではありません。契約条項、実際の取引フロー、資産の保管・利用状況、第三者への処分可能性などを総合して判断します。

なお、固定資産の譲渡など、顧客との契約から生じる収益ではない取引は、収益認識会計基準の適用範囲に含まれない場合があります。その場合は、対象資産と取引形態に応じて、他の会計基準や実務指針を確認する必要があります。

判定ポイント2:買戻し条項を最優先で確認する

売買契約、リース契約、覚書、サイドレターに買戻し条項がある場合は、支配移転の結論に直接影響する可能性があります。

企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「収益認識適用指針」)第69項では、売手が商品又は製品を買い戻す義務、又は買い戻す権利を有する場合、顧客はその商品又は製品に対する支配を獲得していないとしています。リースバックを含む一定の買戻契約は、金融取引として処理します。

買手の要求により売手が買い戻すプット・オプションについても、次の点を確認します。

  • 買戻価格と、買戻日時点で予想される時価との関係
  • 買戻価格と当初の販売価格との関係
  • 買手がオプションを行使する重要な経済的インセンティブを有するか
  • オプションが消滅するまでの期間

契約書に「任意」と書かれていても、価格条件などから実質的に行使が見込まれる場合があります。契約文言だけでなく、経済条件を含めて検討することが重要です。

判定ポイント3:リースバックが実質的なフルペイアウトか

資産の譲渡が売却に該当しても、リースバックにより、売手である借手が資産から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受し、使用に伴うコストのほとんどすべてを負担する場合は、適用指針第33号第55項(2)により金融取引となります。

確認項目には、例えば次のものがあります。

  • リース期間と資産の経済的耐用年数
  • リース料総額の現在価値と資産の時価
  • 残価保証、維持管理費、陳腐化リスクの負担
  • 契約終了時の返還、更新、購入オプション
  • 中途解約の可否と違約金


なお、適用指針第33号第55項(2)の判定について、具体的な数値基準が直接定められているわけではありません。結論の背景BC94では、貸手におけるファイナンス・リースの判定基準(現在価値基準・経済的耐用年数基準)を用いる場合、売手である借手のリース期間とリース料をもとに判定することが考えられるとされています。90%基準や75%基準だけを機械的に当てはめず、取引全体の実態を確認する必要があります。

判定ポイント4:譲渡対価とリース料は市場条件か

資産の譲渡対価とリース料は、別々に設定されていても相互に依存していることがあります。譲渡価格を高くし、その分だけリース料を高く設定すれば、形式上の売却損益を大きく見せることができるためです。

適用指針第33号第57項では、譲渡対価が明らかに時価ではない場合、又はリース料が明らかに市場レートではない場合の調整を定めています。

状況 売手である借手の取扱い
資産の譲渡対価が明らかに時価を下回る場合 時価を用いて譲渡損益を認識し、譲渡対価と時価との差額を使用権資産の取得価額に含める
資産の譲渡対価が明らかに時価を上回る場合 差額を追加的な資金の受入れ(金融取引)として処理する
借手のリース料が明らかに市場のレートを下回る場合 差額を使用権資産の取得価額に含める方向で調整する
借手のリース料が明らかに市場のレートを上回る場合 差額を追加的な資金の受入れ(金融取引)として処理する

明らかに時価ではない、又は明らかに市場のレートではないかどうかの判定は、資産の時価と市場のレートでのリース料のうち、いずれか容易に算定できる方に基づきます。

実務では、譲渡価格の査定資料、第三者見積り、同種資産の取引事例、リース料の算定根拠などを保存し、価格とリース料をどのように検証したかを説明できるようにします。

なお、譲渡対価とリース料に関するこの取扱いは、セール・アンド・リースバック取引に該当しない第53項(1)及び(2)の取引にも適用されます(第58項)。

設例:金融取引と売却処理の違い

前提として、資産の帳簿価額を100、譲渡対価と時価を100、リース期間を5年、年間リース料を20、割引率を5%とします。年間リース料20を5年間支払う場合の現在価値は、約86.59です。

ケース1:金融取引と判定される場合

資産を引き続き認識し、受領額100を金融負債として認識します。1年目のリース料20は、利息5と元本返済15に区分した簡便例です。

借方科目 金額 貸方科目 金額
現金預金 100 金融負債 100
支払利息 5 現金預金 20
金融負債 15

ケース2:譲渡損益を認識する場合

資産の譲渡が売却に該当し、リースバックを借手のリースとして処理する場合の簡便例です。帳簿価額と時価が同額のため、譲渡損益はゼロとしています。

借方科目 金額 貸方科目 金額
現金預金 100 資産 100
使用権資産 86.59 リース負債 86.59
支払利息 4.33 現金預金 20
リース負債 15.67

本設例は理解のための簡便な数値例であり、実際の計算は個別に検討が必要です。譲渡対価、時価、リース料、リース期間、割引率、売却損益及び使用権資産の測定は、契約条件と適用する会計基準に基づき確認してください。

実務で最初に集める資料

資料 主な確認目的
資産の売買契約書 譲渡対象、譲渡時点、対価、検収、危険負担、所有権移転を確認
リース契約書 リース期間、リース料、解約条件、更新、購入オプション、残価保証を確認
覚書・サイドレター 買戻し、最低利用期間、価格補償など、本文外の合意を確認
取引フロー・資産移動記録 支配、物理的占有、検収、第三者への処分可能性を確認
時価・市場レートの根拠 譲渡対価とリース料が市場条件から明らかに外れていないか確認
社内稟議・事業計画 取引目的、継続利用の前提、オプション行使見込みを確認
親会社・監査法人への説明資料 日本基準、IFRS、連結報告の差異と未解決事項を整理

契約一覧と判断根拠の残し方は、新リース基準の契約一覧とリース判定メモの作り方も参考になります。

適用時期と経過措置

リース会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用します。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することができます。これはリース会計基準第58項に定められています。

適用初年度の会計処理は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として扱い、原則として過去の期間のすべてに遡及適用します。また、適用初年度の期首に累積的影響額を利益剰余金に加減し、期首残高から新たな会計方針を適用する方法もあります。適用指針第33号第118項に定める方法のいずれを選ぶかは、会社の契約管理状況と影響額を踏まえて検討します。

既に実行済みのセール・アンド・リースバック取引を適用初年度にどう扱うかは、実務上の最大の論点の一つです。契約開始日、旧基準での処理、残存リース期間、譲渡損益、金融負債又はリース負債の残高を一覧化して、選択した経過措置との整合性を確認します。

移行に向けた判断方針の整理は、新リース基準の会計方針書に何を書くべきかもあわせて確認してください。

買手(貸手)側の取扱い

セール・アンド・リースバック取引におけるリースバックがファイナンス・リースに該当するかの貸手による判定は、適用指針第33号第59項から第69項によります。

ただし、この判定において、経済的耐用年数は、リースバック時における原資産の性能・規格・陳腐化の状況等を考慮して見積った経済的使用可能予測期間を用います。また、当該原資産の借手の現金購入価額には、借手の実際売却価額を用います。これは適用指針第33号第87項の読み替えです。

ファイナンス・リースに該当する場合の会計処理は第70項から第81項までと同様とし、オペレーティング・リースに該当する場合は第82項と同様とします(適用指針第33号第88項)。この読み替えルールは見落とされやすいため、貸手側の判定資料にも明示することが重要です。

IFRS 16対応済みでも、日本基準の再確認が必要

親会社がIFRS 16を適用している場合でも、日本子会社の個別財務諸表で同じ処理になるとは限りません。

適用指針第33号BC93では、日本基準のセール・アンド・リースバックについて、収益認識会計基準などとの整合性を優先し、IFRS 16とは異なる考え方を採用していることが説明されていると考えられます。

親会社の計算結果をそのまま転記するのではなく、売却損益の認識、金融取引該当性、時価・市場レート調整、個別財務諸表と連結報告の差異を整理します。詳しくは、IFRS16を適用済みの親会社を持つ子会社が見落としがちな新リース基準の論点をご覧ください。

注記・開示上の留意点

セール・アンド・リースバック取引では、金融取引として処理するか、譲渡損益を認識してリースバックを処理するかにより、表示・注記上の確認事項が変わる可能性があります。取引の重要性、会計処理、残高、経過措置の選択を整理し、注記の要否を確認します。

税務上の取扱いとの差異

会計上のセール・アンド・リースバックの判定と、税務上の取扱いは、必ずしも一致しません。

法人税では、譲受人から譲渡人への賃貸を条件とする資産の売買について、資産の種類、売買及び賃貸に至るまでの事情などに照らし、一連の取引が実質的に金銭の貸借であると認められるときは、その売買はなかったものとされ、譲受人(賃貸人)から譲渡人(賃借人)への金銭の貸付けがあったものとされます。国税庁「No.5702 リース取引についての取扱いの概要」も確認してください。

会計上は売却、税務上は金銭の貸借となった場合には、一時差異が生じ、申告調整が必要となる可能性があります。

消費税では、譲渡時の課税売上の認識、リース料の課税仕入区分を確認します。固定資産税についても、契約上及び実態上の負担者を確認します。消費税の取扱いは、資産の種類、譲渡・貸付けの形態、税制上のリース取引該当性により変わる可能性があるため、個別に検討してください。

税務の結論は、個別の契約条件・資産の種類・取引実態により異なります。法人税、消費税、固定資産税を含む税務処理は、必ず個別検討が必要です。

よくある質問

Q1. 法的所有権が買手へ移れば、売却として処理できますか。

法的所有権の移転は重要な指標ですが、それだけでは決まりません。買手が資産の使用を指図し、残りの便益のほとんどすべてを享受できるか、買戻し条項がないか、リースバック後も売手が経済的利益とコストのほとんどすべてを負担していないかを確認します。

Q2. 90%基準又は75%基準に該当しなければ、必ず売却になりますか。

必ず売却になるわけではありません。まず、資産の譲渡自体が売却に該当するかを確認する必要があります。また、適用指針第33号第55項(2)の判断は、数値基準だけでなく、資産から生じる経済的利益とコストを実質的に誰が負担するかという取引実態に基づきます。

Q3. 税務上の売買・賃貸借の判定も同じですか。

会計上の判定と税務上の取扱いは、必ずしも一致しません。法人税、消費税、固定資産税は、対象資産と契約条件に応じた個別検討が必要です。詳しくは本記事の「税務上の取扱いとの差異」を確認してください。

Q4. 監査法人への相談前に、何を準備すればよいですか。

売買契約書、リース契約書、覚書、取引フロー、買戻し条件、時価とリース料の算定根拠をそろえ、判定フローに沿った会計判断メモを作成します。未解決事項を明示して相談すると、論点が整理しやすくなります。

まとめ

セール・アンド・リースバックは、契約書の名称や法的所有権の移転だけで売却と判断できる取引ではありません。

セール・アンド・リースバックの対象範囲、譲渡前後の支配、買戻し条項、実質的なフルペイアウト、時価・市場レートを順に確認し、資産の譲渡とリースバックを一体として評価することが重要です。

具体的な結論は、対象資産、契約書、取引フロー、価格条件、適用する会計基準によって変わります。会計判断メモには、結論だけでなく、根拠、使用した資料、未解決事項を残してください。


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参考資料

確認日:2026年8月5日

本記事は一般的な会計上の整理を目的としています。個別取引の会計・税務上の結論は、契約条件、取引実態、適用する会計基準及び監査上の判断を踏まえて個別に検討してください。