意外と知られていない「新リース基準」の破壊力

新リース会計基準の適用に伴う財務インパクトと実務上の留意点

2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度から、「新リース会計基準(企業会計基準第34号)」が原則適用されます。3月決算会社であれば、2028年3月期からの適用です。

制度改正の概要は知られつつありますが、自社の貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)にどの程度の影響が出るかまで把握できている企業は、まだ多くありません。

特に、オフィス、倉庫、車両、複合機、設備などの契約を多く持つ会社では、使用権資産とリース負債の計上額が想定以上に大きくなる可能性があります。

1. オフィス賃貸借の「オンバランス化」による財務指標への影響

一例として、標準的なオフィス賃貸借契約をモデルケースに、会計処理の変化を確認します。

【シミュレーション条件】

  • 月額賃料: 30万円
  • 残存リース期間: 5年(60か月)
  • 割引率: 1.5%(借手の追加借入利子率を想定)

この単一の契約だけでも、新基準適用後はおおむね以下の資産・負債が計上されます。

  • 使用権資産: 約1,730万円
  • リース負債: 約1,730万円

従来、オペレーティング・リースとして費用処理していた契約であっても、新基準上「リースを含む」と判断され、短期リース・少額リース等の免除対象とならない場合には、使用権資産とリース負債をB/Sに計上することになります。

使用権資産とリース負債の計上により総資産・負債が増加するため、自己資本比率やROA(総資産利益率)は低下する方向に働きます。一方で、EBITDAや営業キャッシュ・フローの表示には見かけ上プラスに働く場合もあります。

重要なのは、実際にどの指標にどの程度影響するかを、契約一覧をもとに早めに概算しておくことです。

2. 網羅的な契約抽出の必要性:対象は「コピー機」から「工場」まで

新基準では、契約書の名称が「リース契約」かどうかだけで判断するのではなく、契約が「特定された資産を使用する権利」を一定期間にわたり対価と交換に移転しているかを確認します。

そのため、次のような契約も、内容によってはリースを含む契約として検討対象になります。

  • 不動産賃貸借契約: 本社オフィス、営業拠点、倉庫、工場、社宅等
  • 輸送用機器: 営業車両、配送用トラック、フォークリフト等
  • OA・ITインフラ: 複合機、サーバー、PC端末、ネットワーク機器等
  • 産業機械・什器: 製造ライン設備、店舗什器、医療用機器等

ただし、契約に資産が明記されているだけで必ずリースになるわけではありません。たとえば、サプライヤーが実質的に代替できる資産である場合や、顧客が資産の使用を指図する権利を持たない場合には、リースに該当しないことがあります。

したがって、最初の実務対応では「契約名」ではなく、契約の内容と使用実態を確認することが重要です。

3. 「非上場の子会社」でも早期対応が必要になる場合がある

新リース会計基準への対応は、上場会社本体だけの問題ではありません。

特に、次のような会社では早めの確認が必要です。

  • 上場会社の連結子会社
  • 会計監査人設置会社
  • IFRS 16を適用している親会社を持つ日本基準の子会社
  • 金融機関との財務制限条項(コベナンツ)がある会社
  • オフィス、倉庫、車両、設備などの契約が多い中堅企業

親会社が上場企業である場合、子会社自体が非上場であっても、連結決算パッケージの作成や監査対応のために、リース契約の一覧化、使用権資産・リース負債の試算、注記情報の収集が求められることがあります。

「自社は非上場だから関係ない」と考えるのではなく、親会社の連結方針、監査法人からの依頼、金融機関との契約条件を含めて確認する必要があります。

4. 今すぐ着手すべき実務上のロードマップ

新リース会計基準への対応は、単に会計処理を変更するだけではありません。契約情報の収集、リース判定、計算方法の決定、台帳整備、監査対応まで含む実務プロジェクトです。

まずは、次の順番で進めるのが現実的です。

  1. リース・インベントリの作成
    全社に散在する賃貸借契約・リース契約を一覧化します。

  2. リース識別と免除規定の確認
    契約がリースを含むか、短期リース・少額リース等の免除対象になるかを確認します。

  3. 定量的な影響試算
    使用権資産・リース負債の概算額、自己資本比率、ROA、EBITDA等への影響を確認します。

  4. 会計方針・台帳・計算方法の整備
    適用する簡便法、Excel管理で足りるか、システム対応が必要か、監査法人への説明方針を整理します。

  5. 初年度決算・注記対応の準備
    期末にまとめて対応するのではなく、早い段階で仕訳、注記、監査対応資料のひな形を準備します。

新基準への対応で最初に行うべきことは、会計処理の細部を決めることではなく、自社にどの程度の影響があるかを概算することです。

まずは主要契約だけでも試算し、影響の大きさを把握することが現実的な第一歩です。


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根拠資料

  • 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」
  • 企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」