「ファイナンス・リースだけが対象」は間違い。新リース基準で最も影響が大きいのはどこか

1. 実務現場に多い誤解:「オペレーティング・リースだから影響ゼロ」

新リース会計基準(企業会計基準第34号)への対応を検討する際、よくある誤解が次のものです。

当社の契約はファイナンス・リースではなく、オペレーティング・リースや通常の賃貸借契約なので、新リース基準の影響はないはずだ。

この理解は危険です。

新リース会計基準で大きく変わるのは、まさにこれまでオペレーティング・リースとして費用処理していた契約です。旧基準ではB/Sに載っていなかった契約でも、新基準上「リースを含む」と判断され、短期リース・少額リース等の免除対象とならない場合には、使用権資産とリース負債を計上することになります。

つまり、「ファイナンス・リースだけを確認すればよい」という発想では不十分です。

2. 旧基準と新基準で何が変わるのか

旧リース会計基準では、借手側の会計処理は大きく次のように整理されていました。

  • ファイナンス・リース
    原則として、資産・負債をB/Sに計上する。

  • オペレーティング・リース
    通常は、支払賃借料としてP/Lで費用処理する。

そのため、実務上は「ファイナンス・リースか、オペレーティング・リースか」という分類が重要でした。

しかし、新リース会計基準では、借手についてはリースを原則として使用権資産とリース負債として認識する考え方になります。これにより、これまでオペレーティング・リースとしてB/Sに載っていなかった契約も、リースを含む契約として検討する必要があります。

ここで重要なのは、「すべての賃貸借契約が無条件にB/S計上される」という意味ではないことです。

まず、契約が新基準上のリースを含むかを判定します。そのうえで、短期リース・少額リース等の免除対象になるかを確認します。したがって、最初に行うべき作業は、既存のファイナンス・リース一覧を見ることではなく、契約全体を棚卸しすることです。

3. 契約書の名称だけでは判断できない

新基準では、契約書のタイトルが「リース契約」か「賃貸借契約」かだけで会計処理は決まりません。

確認すべきなのは、その契約が次のような内容を含んでいるかです。

  • 特定された資産があるか
  • その資産を一定期間使用する権利があるか
  • 顧客がその資産の使用を支配しているか
  • その使用権が対価と交換に移転しているか

たとえば、次のような契約は、内容によってはリースを含む契約として検討対象になります。

  • 本社や営業拠点のオフィス賃貸借契約
  • 物流倉庫や工場の賃貸借契約
  • 車両、フォークリフト、複合機、サーバー等の利用契約
  • 店舗什器、設備、医療機器などの賃貸借・利用契約

一方で、契約に資産が明記されていても、サプライヤーが実質的に代替できる資産である場合や、顧客が資産の使用方法を指図する権利を持たない場合には、リースに該当しないことがあります。

したがって、「契約名」ではなく、「契約の内容」と「使用実態」を確認することが重要です。

4. 影響が大きくなりやすいのはどの会社か

新リース会計基準の影響が大きくなりやすいのは、これまでオペレーティング・リースや賃貸借契約として費用処理していた契約を多く持つ会社です。

特に、次のような会社では早めの確認が必要です。

  • 複数拠点のオフィスや店舗を借りている会社
  • 倉庫、工場、社宅、駐車場などの不動産賃貸借が多い会社
  • 車両、複合機、サーバー、設備などの契約が多い会社
  • 上場会社の連結子会社
  • 会計監査人設置会社
  • 金融機関との財務制限条項(コベナンツ)がある会社

これらの会社では、1件ごとの金額は大きくなくても、契約数が多いことで使用権資産・リース負債の総額が大きくなる可能性があります。

また、B/Sに使用権資産とリース負債が計上されることで、自己資本比率やROAなどの財務指標に影響が出る場合があります。EBITDAや営業キャッシュ・フローの表示にも影響が出ることがあるため、経営管理指標や金融機関向け説明にも注意が必要です。

5. P/L・EBITDAへの影響も確認が必要

新リース基準の影響は、B/Sが膨らむことだけではありません。P/L上の費用表示や、管理指標にも影響します。

旧基準でオペレーティング・リースとして処理していた契約では、毎月の支払額を賃借料として費用処理していたケースが多くありました。

新基準で使用権資産とリース負債を計上する場合、一般的には次のような形に変わります。

  • 使用権資産の減価償却費
  • リース負債に係る利息費用

このため、EBITDA(利払前・税引前・償却前利益)は見かけ上改善する場合があります。一方で、リース期間の前半では利息費用が相対的に大きくなるため、契約条件によっては経常利益や当期純利益への影響も確認が必要です。

ただし、影響の方向や金額は契約条件、割引率、表示方法、既存の管理指標によって変わります。一般論だけで判断せず、自社の契約一覧をもとに試算することが必要です。

6. 初動対応は「全契約の棚卸し」から始める

新リース基準対応で最初に行うべきことは、会計処理の細部を決めることではありません。

まず必要なのは、全社に存在する契約を棚卸しし、新基準上の検討対象になる契約を把握することです。

最低限、次の情報を一覧化します。

  • 契約名
  • 契約相手先
  • 対象資産
  • 月額・年額の支払額
  • 契約開始日・終了日
  • 解約不能期間
  • 更新・延長オプション
  • 中途解約条項
  • 短期リース・少額リース等の該当可能性

そのうえで、リースを含む契約かどうか、使用権資産・リース負債の概算額がどの程度になるか、財務指標にどの程度影響するかを確認します。

「ファイナンス・リースだけを見ればよい」という発想では、重要な契約を見落とす可能性があります。

まずは契約の棚卸しと影響額の概算から始めることが、新リース基準対応の現実的な第一歩です。


九段パートナーズ会計事務所の新リース会計基準対応支援

新リース会計基準の影響額を、まず30分で確認しませんか。
九段パートナーズ会計事務所では、上場会社の子会社・中堅企業・会計監査人設置会社向けに、新リース会計基準への対応支援を行っています。

リース契約の件数・月額・残存期間の概要をもとに、使用権資産・リース負債の概算額、財務指標への影響、今後の対応優先度を確認します。

無料相談で自社への影響を確認する


根拠資料

  • 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」
  • 企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」