新リース会計基準とは?中小企業への影響
1. 結論:中小企業でも「関係ない」とは言い切れない
新リース会計基準は、上場会社や監査対象会社だけの話だと思われがちです。
しかし、中小企業でも、次のような会社では影響確認が必要です。
- 会計監査人を設置している会社
- 上場準備中の会社
- 上場会社やIFRS適用会社の子会社・関連会社
- 金融機関や株主に日本基準ベースの財務諸表を説明する会社
- 不動産、車両、倉庫、機械装置、複合機、IT機器などの賃貸借・リース契約が多い会社
一方で、「中小企業であっても、すべての会社に新リース会計基準が同じように強制適用される」と考えるのも正確ではありません。
中小企業では、会社がどの会計ルールで計算書類を作成しているか、会計監査の対象か、親会社や金融機関からどのような財務情報を求められているかによって、実務上の対応が変わります。
したがって、中小企業にとって最初に確認すべきことは、「新リース会計基準の内容」そのものだけではありません。
まず、自社がどの会計ルールで計算書類を作っているかを確認することです。
2. 新リース会計基準はいつから適用されるか
企業会計基準第34号第58項では、新リース会計基準の適用時期について、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用するとされています。
また、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することもできます。
3月決算会社であれば、原則として2027年4月1日に開始する2028年3月期から強制適用となります。
そのため、適用対象となる会社では、2028年3月期の決算時に初めて対応するのでは遅く、2027年4月1日の期首時点でリース契約、会計方針、期首残高を整理しておく必要があります。
3. 新リース会計基準で何が変わるか
新リース会計基準で大きく変わるのは、借手の会計処理です。
企業会計基準第34号第33項・第34項では、借手はリース開始日に使用権資産とリース負債を計上する考え方が示されています。
使用権資産とは、リース期間にわたり原資産を使用する権利を表す資産です。
リース負債とは、将来支払うリース料に対応する負債です。
従来はオペレーティング・リースとして、毎月の賃借料やリース料を費用処理するだけだった契約でも、新基準では貸借対照表に資産・負債として表れる可能性があります。
ただし、ここで重要なのは、「すべての賃貸借契約が無条件にオンバランス化されるわけではない」という点です。
実務では、次の順番で確認します。
- 契約がリースを含むか
- 短期リースや少額リース等の簡便的な取扱いを適用できるか
- 使用権資産とリース負債をいくらで計上するか
- 財務指標、金融機関説明、経理業務にどのような影響があるか
4. まず確認するのは「リースに該当するか」
企業会計基準第34号第6項では、リースを、原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分と定義しています。
また、企業会計基準第34号第25項・第26項、適用指針第33号第5項から第8項では、契約がリースを含むかどうかの判断が整理されています。
実務上は、次のような契約が確認対象になります。
- 事務所、店舗、営業所
- 倉庫、物流拠点、駐車場
- 車両リース
- 複合機、OA機器
- サーバー、通信機器、IT機器
- 生産設備、検査装置
- 専用設備を含む外部委託契約
ただし、契約名称だけで判断してはいけません。
「賃貸借」「リース」「使用許諾」「サービス契約」「業務委託契約」という名称だけでは、リースに該当するかどうかは決まりません。
特定された資産の使用を支配する権利が一定期間にわたり移転しているかを確認する必要があります。
5. 短期リース・少額リースはどうなるか
新リース会計基準には、短期リースや少額リースについて、一定の簡便的な取扱いがあります。
適用指針第33号第20項では、短期リースについて、一定の要件を満たす場合には使用権資産とリース負債を計上せず、リース料を原則として定額法により費用処理できるとされています。
また、適用指針第33号第22項・第23項では、少額リースについて、一定の場合に使用権資産とリース負債を計上しない処理が認められています。
いわゆる「300万円基準」については、適用指針第33号BC41からBC43に、その由来が整理されています。
したがって、記事や社内説明で「少額リースは対象外」とだけ書くと、やや粗い表現になります。
正確には、一定の要件を満たす場合に、使用権資産・リース負債を計上しない簡便的な取扱いを適用できる、という整理です。
6. 中小企業に一律適用と考えるのは危険
中小企業への影響を考えるときは、新リース会計基準だけでなく、中小企業会計指針と中小会計要領との関係を確認する必要があります。
中小企業会計指針は、中小企業が計算書類を作成するに当たり、拠ることが望ましい会計処理や注記等を示すものです。
同指針第4項では、金融商品取引法の適用を受ける会社並びにその子会社及び関連会社、会計監査人を設置する会社及びその子会社を適用対象外としています。
これらの会社は、公認会計士又は監査法人の監査を受けるため、会計基準に基づき計算書類又は財務諸表を作成することが理由として示されています。
一方、中小会計要領は、中小企業の多様な実態に配慮し、会社法上の計算書類等を作成する際に参照するための会計処理や注記等を示すものです。
中小会計要領I.2では、利用が想定される会社として、金融商品取引法の規制の適用対象会社と会社法上の会計監査人設置会社を除く株式会社が示されています。
また、中小会計要領I.3では、企業会計基準や中小企業会計指針に基づいて計算書類等を作成することを妨げないとされています。
つまり、中小企業の場合は、まず次の点を確認する必要があります。
- 自社は会計監査人設置会社か
- 親会社の連結パッケージで新リース基準対応が必要か
- 中小企業会計指針を採用しているか
- 中小会計要領を利用しているか
- 金融機関、株主、取引先からどの水準の財務情報を求められているか
この確認をしないまま、「中小企業だから関係ない」と判断するのも、「中小企業でもすべて同じ対応が必要」と判断するのも危険です。
7. 中小企業会計指針・中小会計要領のリース取引
2026年5月8日時点で公開資料を確認する限り、中小企業会計指針のリース取引は、75-2から75-4に整理されています。
同指針75-3では、所有権移転外ファイナンス・リース取引に係る借手について、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行うとしつつ、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うこともできるとされています。
また、同指針75-4では、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行った場合には、未経過リース料を注記するとされています。ただし、重要性がないリース取引については注記を省略できます。
中小会計要領II.10では、リース取引に係る借手は、賃貸借取引又は売買取引に係る方法に準じて会計処理を行うとされています。
このため、少なくとも現時点で公開資料を確認する範囲では、中小企業会計指針・中小会計要領のリース取引が、新リース会計基準の借手オンバランス処理と同じ内容に単純に置き換わっている、とは断定できません。
中小企業の記事では、この点を分けて説明することが重要です。
8. 中小企業で影響確認が必要になるケース
中小企業でも、次のようなケースでは、新リース会計基準の影響確認を早めに行うべきです。
会計監査人を設置している場合
会計監査人設置会社やその子会社は、中小企業会計指針の適用対象から外れます。
この場合、企業会計基準第34号の適用対象になるか、監査人と早めに確認する必要があります。
上場準備中の場合
上場準備会社では、将来の監査、内部統制、財務諸表作成を見据えて、新リース会計基準への対応が必要になる可能性があります。
リース契約の一覧化、リース判定、システム対応、注記作成は短期間で終わりにくいため、早めの準備が必要です。
親会社から連結パッケージを求められる場合
親会社が上場会社又はIFRS適用会社である場合、子会社側にもリース情報の提出が求められることがあります。
この場合、子会社単体の計算書類だけでなく、親会社連結目的の資料作成が必要になることがあります。
金融機関説明が必要な場合
新リース基準により、使用権資産とリース負債が計上されると、総資産、負債、有利子負債に近い指標、自己資本比率、ROAなどに影響する可能性があります。
影響の方向や大きさは契約内容や会計方針により異なりますが、金融機関から財務指標の変動理由を聞かれる可能性はあります。
事前に影響額を試算し、説明資料を用意しておくことが実務上有用です。
9. 経理業務への影響
新リース会計基準への対応では、単に会計仕訳を変えるだけでは足りません。
実務では、次の作業が必要になります。
- 契約書の収集
- リース判定
- 短期リース・少額リースの判定
- リース期間の決定
- 割引率の検討
- 使用権資産・リース負債の計算
- 会計システム又はリース管理台帳の整備
- 注記情報の作成
- 金融機関・親会社・監査人への説明資料作成
中小企業では、リース契約が少ないように見えても、不動産、車両、OA機器、IT機器、倉庫、駐車場などを合わせると、確認対象が多くなることがあります。
経理担当者だけで契約書を集めるのが難しい場合は、総務、店舗管理、情報システム、購買部門などの協力も必要です。
10. 税務は会計とは別に確認する
新リース会計基準への対応では、税務上の取扱いも確認が必要です。
ただし、会計上の処理と税務上の処理は、常に一致するとは限りません。
法人税、消費税、外形標準課税、固定資産税、インボイス制度との関係は、契約内容や処理方法によって確認が必要になります。
この記事では、税務処理を断定せず、個別確認事項として扱います。
実務では、会計処理を決める前に、税務上の影響も合わせて確認することをおすすめします。
11. 中小企業がまず行うべき準備
中小企業が最初に行うべき準備は、難しい計算ではありません。
まず、次の5点を確認してください。
- 自社が採用している会計ルールを確認する
- 会計監査人設置会社、上場準備会社、親会社連結対象会社に該当するか確認する
- リース契約・賃貸借契約・使用許諾契約・外部委託契約を一覧化する
- 重要な契約から、リースを含むかどうかを判定する
- 財務指標、金融機関説明、税務への影響を整理する
特に、3月決算会社で新基準の適用対象となる場合、2027年4月1日の期首に向けた準備が必要です。
決算直前に契約書を集め始めると、リース判定、影響額試算、会計方針の決定、監査人・金融機関との協議が間に合わなくなる可能性があります。
12. よくある質問
Q1. 中小企業は新リース会計基準に対応しなくてもよいですか
一律には言えません。
会計監査人設置会社、上場準備会社、親会社連結対象会社、金融機関説明が必要な会社では、影響確認が必要になる可能性があります。
一方、中小企業会計指針や中小会計要領に基づいて計算書類を作成している会社では、その作成基準との関係を確認する必要があります。
Q2. 事務所家賃もオンバランスになりますか
契約内容によります。
不動産賃貸借契約であっても、まず契約がリースを含むかどうかを判断し、短期リースや少額リース等の簡便的取扱いの適用可否を確認する必要があります。
Q3. 複合機や車両リースは対象ですか
対象になる可能性があります。
ただし、契約名称だけで判断せず、リース識別、短期リース、少額リース、契約金額、リース期間を確認する必要があります。
Q4. 税務上も同じ処理になりますか
必ず同じとは限りません。
会計処理と税務処理は異なる場合があるため、法人税、消費税、地方税の取扱いは個別に確認する必要があります。
13. まとめ
新リース会計基準は、中小企業にとっても無関係とは言い切れません。
ただし、「中小企業にも一律に同じ処理が強制される」と考えるのも正確ではありません。
重要なのは、自社がどの会計ルールで計算書類を作成しているか、監査対象か、親会社や金融機関からどのような財務情報を求められているかを確認することです。
その上で、リース契約を一覧化し、重要な契約からリース判定と影響額試算を進める必要があります。
中小企業であっても、リース契約が多い会社、金融機関説明が必要な会社、上場準備中の会社、親会社連結対象会社では、早めの確認が実務上重要です。
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特に、次のようなお悩みがある場合は早めの確認をおすすめします。
- 自社が新リース会計基準の対象になるか分からない
- リース契約や賃貸借契約が多く、影響額を把握できていない
- 親会社・監査法人・金融機関への説明資料を準備したい
- 経理部門だけで契約情報を集められるか不安がある
根拠資料
- 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」第6項、第25項、第26項、第33項、第34項、第54項、第58項、BC20からBC21
- 企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」第4項(2)、第5項から第8項、第20項、第22項、第23項、第118項から第126項、BC37からBC45
- 「中小企業の会計に関する指針(令和7年(2025年)9月19日修正)」第1項、第3項から第9項、75-2から75-4
- 「中小企業の会計に関する基本要領」I.1からI.6、II.10


